2024年5月13日:オルガノイド開発のすさまじい進歩を報告した論文3報

倫理的ハードルなどが理由となり、実際に臨床検体を扱った研究が難しい領域があります。

そのような領域においては、倫理的課題をクリアした手法で採取した検体を起点に作られる各組織のオルガノイドが不可欠です。実際、オルガノイド開発の研究は頻繁に見かけます。

今回は、オルガノイドの新技術やその利用について、過去にツイッターで紹介した論文3報を紹介します。

※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

オルガノイド開発に関する論文3報

ヒト結膜から結膜オルガノイドを作った Cell Stem Cell

ヒト結膜から結膜オルガノイドを作り、機能や分化を調べるだけでなく、マウス結膜へ移植して定着を確認した論文。

タイトルは、

Human conjunctiva organoids to study ocular surface homeostasis and disease

ヒトとマウスで両方実現していて、結膜上皮のトランスクリプトームや代謝物の評価もしています。

今後は様々な結膜関連疾患の研究に使われ、結膜の細胞治療に大きく貢献する基盤技術になるかもしれません。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(23)00438-1

ヒト胎児の脳からオルガノイドを作った Cell

ヒト胎児の脳をin vivoで培養することでオルガノイドが作られること、しかも脳組織の特徴をしっかり維持していて、様々な研究に対応できることを示した研究。

タイトルは

Human fetal brain self-organizes into long-term expanding organoids

成熟過程の観察だけでなく、ゲノム編集で脳腫瘍モデルを作って薬剤スクリーニングもやっています。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867423013442

妊婦の羊水検査検体から、細胞を取ってオルガノイドに Nature Medicine

妊娠中の羊水検査用の検体から胎児に由来する各組織の細胞を単離し、そこから各組織の上皮オルガノイドを作ったという論文。

タイトルは

Single-cell guided prenatal derivation of primary fetal epithelial organoids from human amniotic and tracheal fluids

小腸、尿細管、肺の各組織の上皮オルガノイドを作り、元組織と同じ特徴を示すことを、トランスクリプトームやタンパク発現解析を行って確認しています。

この技術により、特に妊娠後期の胎児を対象とした基礎研究を、低侵襲サンプルから展開できるようになるかもしれません。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.nature.com/articles/s41591-024-02807-z

終わりに

オルガノイド技術は、倫理的に難しい研究対象に対する基礎研究を可能にしてくれる可能性を秘めています。

特に、胎児や脳など、実験研究が難しい領域においてオルガノイドの進歩は欠かせません。

上記に限らず、今後の技術の発展もチェックしていきたいです。

 

トップへ戻る

論文紹介へ戻る




2024年5月12日:栄養成分とガン免疫に関する基礎研究論文4報

栄養成分やその代謝物が、体内での免疫機構に大きく関わっているということは報告がたくさんあり、一部研究はガン免疫の有効性に栄養成分が関与していることが示唆されています。

今回は、栄養成分やその代謝物による、ガン免疫への影響を評価した基礎研究の論文を紹介します。

※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。*ほかにも似た論文はたくさん出ていますが、ご容赦ください。

栄養成分とがん免疫に関する基礎研究論文4報

アミノ酸代謝産物グルタル酸の抗腫瘍作用 Nature Metabolism

アミノ酸代謝で産生されるグルタル酸が、T細胞の代謝制御を介してCD8+への分化を誘導して、腫瘍免疫を高めるという論文。

タイトルは、

Glutarate regulates T cell metabolism and anti-tumour immunity

動物試験ではグルタル酸塩投与での有効性も確認しています。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.nature.com/articles/s42255-023-00855-2

アスパラギン酸摂取を控えることがガン免疫と関連? Nature Metabolism

アスパラギン摂取を制限することで、分化中のCD8T細胞の増殖力とエフェクター機能を高め、結果的にガン免疫を向上させることを明らかにした論文。

タイトルは

Asparagine restriction enhances CD8+ T cell metabolic fitness and antitumoral functionality through an NRF2-dependent stress response

一方で、CD8T活性化直後のアスパラギン制限は機能向上にはつながらないとのこと。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.nature.com/articles/s42255-023-00856-1

トランス脂肪酸がむしろ抗腫瘍に寄与する? Nature

トランス脂肪酸がCD8T細胞のGPR43へ作用して短鎖脂肪酸由来の活性を抑え、抗腫瘍免疫を活性化させるという論文。

タイトルは

Trans-vaccenic acid reprograms CD8+ T cells and anti-tumour immunity

論文では動物とヒト由来細胞の結果がメインで、今後続報が出てくるか気になります。 栄養学で基本悪者とされるトランス脂肪酸でも、その生理活性は多様のようです。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06749-3

 

ビタミンDがガン免疫の有効性向上に寄与する? Science

ビタミンDがガン免疫の有効性向上に寄与していることを示した論文。

タイトルは

Vitamin D regulates microbiome-dependent cancer immunity

ヒトのおいてもビタミンDとガン免疫療法の予後に関連が見られ、この作用には腸内細菌叢の働きが重要であるとのこと。

 

論文リンクはこちら↓

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh7954

終わりに

栄養成分とガン免疫に関する基礎研究を4本紹介しましたが、実際にヒトでどうかはまだ不明な点が多いと思います。

特定の栄養成分でガンに対する免疫が大きく変わるわけではないと思いますので、その点ご注意ください。

それも踏まえて、今後も栄養成分とガン免疫との関連は紹介していきたいと思います。

 

トップへ戻る

論文紹介へ戻る




2024年5月11日:GPCR-リガンドスクリーニングに関するスケール特大論文3報

新しいリガンドスクリーニング技術は頻繁に論文に報告されていますが、最近はそのスケールがとてつもなく大きいだけでなく、その技術を利用した新発見も併せて論文に掲載されていることが多いです。

特にGPCRと代謝物の相互作用については、研究がどんどん出てきています。

 

今回は、GPCR-リガンドスクリーニングに関して、私が直近1年で紹介した論文3報を掲載します。

*ほかにも似た論文はたくさん出ていますが、ご容赦ください。

GPCR-リガンドスクリーニングに関するスケール特大論文3報

アルツハイマーにかかわるGPCR-腸内細菌代謝物ペアを特定 Cell Reports

腸内細菌代謝物335種とGPCR108種の結合パターンを機械学習を使って約109万ペア同定し、アルツハイマー予防にかかわるGPCRや代謝物を特定した論文です。

タイトルは、

Systematic characterization of multi-omics landscape between gut microbial metabolites and GPCRome in Alzheimer’s disease

https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(24)00456-X

 

マルチオミクス、GWAS、メンデルランダム化、Alphafold2、機械学習などなど、使えるものをフルセットで使っているすさまじい論文で、メカニズム解明の実験も膨大です。

すごく大規模な研究だと私も思いましたし、「これでCell Reports?」というコメントをたくさんもらいました。

GPCRにて活性化しているGタンパクを検出するバイオセンサー Cell

GPCRがリガンドと結合した際にどのGタンパクが活性化しているか?を、スクリーニング・確認できるバイオセンサー「ONE-GO」を開発・実用化したという論文。

タイトルは

Direct interrogation of context-dependent GPCR activity with a universal biosensor platform

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092867424000655

 

GPCR全タイプに対応し、細胞の種類も問わないらしい。もちろん分子機構の研究にも使えるとのこと。

バイオセンサーキットの情報も公開されており、購入もできるようです(以下リンクから)。

https://www.addgene.org/kits/garcia-marcos-one-go-biosensors

すべてのGPCRと化合物の相互作用を、96穴プレートで一斉評価できる Cell

特定の化合物がどのGPCRと相互作用するか、ほぼ1枚の96穴プレート一斉評価できてしまう「PRESTO-Salsa」というスクリーニングツールを開発した論文。

タイトルは

Highly multiplexed bioactivity screening reveals human and microbiota metabolome-GPCRome interactions

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(23)00543-3

 

論文では、ヒト関連代謝物1041種とGPCRの相互作用を評価し、これまで知られていなかった関連をたくさん見出しています。

それだけでなく、ヒト常在微生物435株由来代謝物とGPCRの相互作用も網羅的に調べ、Porphyromonas gingivalisという細菌のヒトCD97/ADGRE5への作用も明らかにしています。

終わりに

機械学習や様々なテクノロジーを駆使したスクリーニング技術はすごい勢いで発展しています。

普段これらの技術を使うことがない分、せめて論文などで考え方に触れておかないとすぐにおいていかれてしまいそうです。

トップへ戻る

論文紹介へ戻る




2024年5月10日:脂質の吸収代謝もまだまだ分からない!な論文4報

私たちは食事で脂質をたくさん摂取していますが、その吸収代謝については、まだまだ分からないことがたくさんあるようです。

今回は、直近1年で特に面白かった、脂質の吸収代謝に関する論文4報を紹介します。

※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

脂質の吸収代謝もまだまだ分からない!な論文4報

トリグリセリドの新しい合成経路? Nature

半年近く前ですが、トリグリセリドの新しい合成経路・酵素(DIESL)が見つかったという論文です。

タイトルは、

Identification of an alternative triglyceride biosynthesis pathway

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06497-4

 

DIESLは転写因子TMX1によって合成速度が制御されていること、マウスでDIESLを欠損させると出産後のトリグリセリド合成悪化で成長がかなり悪くなることも報告されています。

コレステロールの吸収後の輸送経路は実は不明だった! Science

食事由来コレステロールの小腸での吸収機構について、まだ分かってなかった点を明らかにした論文。

タイトルは

Aster-dependent nonvesicular transport facilitates dietary cholesterol uptake

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf0966

 

コレステロールを腸の細胞が取り込んだのちに、どのように体内の輸送系に入っていくかを明らかにしています。

腸細胞のミトコンドリアが食事脂質の吸収に関与 Nature

腸上皮細胞のミトコンドリアが食事由来脂質の吸収に関わることを明らかにした論文。

タイトルは

Mitochondrial dysfunction abrogates dietary lipid processing in enterocytes

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06857-0

 

ミトコンドリアが機能不全になると、カイロミクロン形成ができなくなるそうです。

また、腸のミトコンドリアの機能不全が関わる疾患では、腹痛・下痢・便秘などの消化器症状も併発されやすいらしいことも、この文献で初めて知りました。

新しいコレステロール代謝ホルモンを発見! Cell

最後にこれ。個人的にも、これはとんでもなく凄い発見なんじゃないか?と思っています。

腸から分泌される新しいホルモン「コレシン」を発見し、肝臓でのコレステロール合成を抑制すること、腸でのコレステロール吸収に応答して血中コレステロールを調節することを、ヒトとマウスで明らかにした論文。

タイトルは

A gut-derived hormone regulates cholesterol metabolism

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(24)00226-5

 

コレシン合成遺伝子もヒトで特定し、コレシンの作用機序も明らかにしています。

発見のインパクトがすごく大きいだけでなく、主な作用機序まで見せていて、さすがCellです。

 

終わりに

油脂・脂質の吸収代謝についてはすでに教科書にもたくさんの情報が載っていますが、

それでもまだまだ明らかになっていない点は多いようです。

基礎的な栄養学も、まだまだ調べることは多そうです。

論文紹介へ戻る




2024年5月9日:腸内細菌のアミノ酸代謝がすごい!な論文3報

腸内細菌叢ではユニークな代謝物がたくさん作られ、宿主の健康に大きく関わっています。

その中でも、腸内細菌のアミノ酸代謝に関する論文を最近多く見かけるので、いくつか紹介します。

※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

腸内細菌のアミノ酸代謝が大事!な論文3報

新生児の腸内セロトニンがアレルギー予防に? Science Immunology

新生仔マウスの腸では神経伝達物質セロトニンが多く存在し、制御性T細胞増加や経口免疫寛容を促すこと、このセロトニンは腸内細菌が生成していることを明らかにした論文。

タイトルは

Gut bacteria–derived serotonin promotes immune tolerance in early life

https://www.science.org/doi/10.1126/sciimmunol.adj4775

 

仔の神経伝達物質合成が腸内細菌に制御されているのは面白いです。

腸内細菌に概日リズムにより、絶えずトリプトファン代謝が変動 Cell Reports

腸内細菌叢のトリプトファン代謝が概日リズムを刻んでいることを示した動物試験の論文。

タイトルは

The microbiota drives diurnal rhythms in tryptophan metabolism in the stressed gut

https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(24)00407-8#secsectitle0105

 

トリプトファン代謝酵素を持つ細菌の多くがリズムを刻むそうです。

また、動物に急性ストレスを与えると代謝リズムが乱れ、宿主のトリプトファン代謝にも影響するそうです。

BCAAとトリプトファンを代謝する腸内細菌が糖代謝を調節? Cell Host & Microbe

一部の腸内細菌が腸管内でアミノ酸代謝を活発に行っており、これにより宿主のアミノ酸代謝や耐糖能が調節されることを示した動物試験の論文です。

タイトルは

Microbiota metabolism of intestinal amino acids impacts host nutrient homeostasis and physiology

https://www.cell.com/cell-host-microbe/fulltext/S1931-3128(24)00121-5

 

BCAAとトリプトファンの代謝遺伝子を持つ細菌が、宿主のグルコース代謝に影響するとのこと。

終わりに

腸内細菌のアミノ酸代謝と宿主の健康は切っても切れない関係です。

腸内細菌叢の個人差にとどまらず、細菌の概日リズムやそれに伴う代謝動態の変化まで…

アミノ酸代謝だけでも奥が深いです…

 

トップへ戻る

論文紹介へ戻る




2024年5月8日:妊娠中の母親や胎児の劇的な変化を感じる論文3報

妊娠中の母親や胎児は、体の中で常に劇的な変化を起こしています。

今回はその様子が垣間見える論文を、3報紹介します。

※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

妊娠中の母親や胎児の劇的な変化を感じる論文を3報紹介

母親の高血糖が胎児の代謝に影響? Cell

妊娠中の高血糖状態が胎児の代謝プロファイルを変えてしまうことを動物実験で示したCellの論文。

タイトルは、

Atlas of fetal metabolism during mid-to-late gestation and diabetic pregnancy

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S009286742301228X

 

胎児へのソルビトールの蓄積、胎児脳のアミノ酸代謝の変化を見つけ、さらに13Cを使って胎児の成長と代謝状態の変化も捉えています。

ResourceとはいえさすがCell本誌で、かなり読みごたえがあります。

妊娠中、母親の各組織の代謝は絶えず変化する Cell

妊娠中、母体各組織の代謝状態がどのように推移するかを、実験用サル由来組織のオミクス解析で詳細に調べた論文。

タイトルは

A multi-tissue metabolome atlas of primate pregnancy

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(23)01329-6

 

妊娠への母体の適応に関連する代謝物の同定にも成功したそうです。

代謝物の妊娠における役割についても、ヒト細胞モデルやヒトサンプルを使って調査しています。

妊娠期の概日リズムが大事? Nature Metabolism

妊娠期の概日リズムの乱れが、仔の新生児疾患(壊死性腸炎や敗血症)の重症化リスクを高めてしまうことを、動物試験で示した論文。

タイトルは

Maternal circadian rhythm disruption affects neonatal inflammation via metabolic reprograming of myeloid cells

https://www.nature.com/articles/s42255-024-01021-y

 

リズムの乱れにより、新生児骨髄由来抑制性細胞(MDSCs)が機能障害を起こし、胎児の炎症惹起に繋がってしまうとのこと。

終わりに

妊娠中に母親や胎児ではかなり大きな変化があることが、これらの論文からもよく分かります。

神秘的な領域でもあるので、今後も最新の研究を追っていきたいところです。

 

トップへ戻る

論文紹介へ戻る