Growth Differentiation Factor-15、略してGDF15。
これまでどちらかというと免疫の文脈で語られてきたサイトカインですが、疫学研究ではGDF15の血中濃度が死亡率の上昇と関連していたり、メトホルミンによる体重減少作用を媒介している可能性が示唆されるなど、体内での重要性は示唆されていたようです。
このGDF15に関して昨年、非常にインパクトの大きい論文が多数出版されました。私自身GDF15との接点は全くなかったですが、素人目に見てもそのインパクトに驚かされました。
今回は、GDF15の影響範囲の大きさを感じさせられる論文5報を紹介します。
※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
GDF15の影響範囲が大きすぎて驚く論文5報:20240527
GDF15がやせ薬となる可能性を発見 Nature
こちらが2023年にNatureに投稿されてかなり評判を呼んだ論文。
GDF15を投与すると、摂餌量やカロリー摂取量に関係なく肥満・インスリン抵抗性・NASHが改善されること、食欲が抑制されて肥満も予防されるだけでなく、カロリーたという論文。
タイトルは、
GDF15 promotes weight loss by enhancing energy expenditure in muscle
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06249-4
メカニズムとしては、
①GDF15がGFRAL(glial-cell-derived neurotrophic factor family receptor α-like)という受容体に作用して食欲を調節すること、
②GDF15がカロリー制限下においても骨格筋におけるエネルギー消費を下げずに保つこと、
③GFRAL-β アドレナリン作動性シグナル伝達軸を介してエネルギー消費を増加させること、
が挙げられています。
GDF15の代謝改善作用は、レプチンと連動している Cell Metabolism
一つ上の論文で述べたGDF15による体重減少効果に関して、「GDF15を食欲調節ホルモンのレプチンと併用すると効果が高まるよ」というメカニズムを明らかにした、動物試験の論文。
タイトルは
GDF15 enhances body weight and adiposity reduction in obese mice by leveraging the leptin pathway
https://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(23)00219-X
高脂肪食摂取マウスへGDF15とレプチンを併用して投与すると、GDF15投与だけ、もしくはレプチンだけ投与した場合と比較し、体重減少効果が増強されたとのこと。
レプチンシグナル経路がGDF15の作用増強に関わり、これに伴い食欲調節と摂食量減少につながると書かれています。
GDF15による体重減少の有無で、インスリン感受性が変わる。 Cell Metabolism
GDF15で瘦せる人と痩せない人の間で、インスリンに対する応答性が全く異なっていることを明らかにした論文。
タイトルは
GDF15 increases insulin action in the liver and adipose tissue via a β-adrenergic receptor-mediated mechanism
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1550413123002267
この論文での主張は、「GDF15で体重減少するとインスリン抵抗性が増加してしまうけど、体重が減らない場合はインスリン感受性が改善するよ」という趣旨と思われます。
メカニズムの一つとして、後脳に発現しているGDF15 受容体のGFRAL(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) family receptor alpha-like )と、肝臓と脂肪組織に発現しているβアドレナリン受容体を介したシグナルが関与することを明らかにしています。
ガン腫瘍が分泌するGDF15は、抗PD-1療法の有効性を下げる Nature Communications
腫瘍が分泌するGDF15はT細胞の腫瘍への遊走を阻害し、チェックポイント遮断療法の有効性を下げてしまうことを、動物試験で確認した論文。
タイトルは
Tumor-derived GDF-15 blocks LFA-1 dependent T cell recruitment and suppresses responses to anti-PD-1 treatment
https://www.nature.com/articles/s41467-023-39817-3
GDF15の中和抗体を投与することでT細胞のリクルートや抗PD-1療法の有効性が大きく改善したそうです。
GDF15はガンに関連する食欲不振などにも関連しているらしく、ガン発症後のGDF15の制御がその予後に大きく関わる可能性を示唆しています。
GDF15はつわりの原因 Nature
著者個人的に、2023年で最も衝撃を受けた論文。
妊娠中のつわりに、胎児が作り分泌するGDF15が関連しており、そのメカニズムを明らかにしたという衝撃の論文。
タイトルは
GDF15 linked to maternal risk of nausea and vomiting during pregnancy
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06921-9
先行研究にて妊娠期のつわりとGDF15の関連は示唆されていたものの、その詳細は分かっていなかったとのこと。
今回の研究では、母親と胎児ではGDF15に対する応答性が異なる可能性があり、非妊娠時のGDF15体内濃度が低い母親がGDF15分泌能力が高い胎児を妊娠すると、高濃度のGDF15の曝露を受けてつわり症状が生じるリスクが高まる、と報告しているようです。
ヒト観察研究でも、母親血中のGDF15の濃度とつわり症状と関連していたそうです。
ほとんど原因が分かっていなかったつわりに対して、医療から対応できる可能性を見出したすごい研究だと思います。
終わりに
私自身、GDF15というホルモンについて昨年まで全く知りませんでしたが、上記の論文に目を通した中でその影響範囲の広さを感じさせられました。
特に、つわりへアプローチするヒントが得らえたことは、今後の多くの女性を助ける研究につながるのではないかと期待しています。
次の情報が出てくることを楽しみに待ちたいです。
コメント