2024年6月17日:キシリトールが心疾患リスクを高める?など最新論文4報

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この記事では2024年5月下旬~6月上旬に出版された最新論文を4報紹介します。

「キシリトールが心疾患リスクを高めるかも」という、普段ガムを噛んでいる私にはびっくりする論文が登場したほか、インフルエンザウイルスの細胞感染メカニズムに迫った研究や、EPAの有効性に遺伝子多型が絡むことを示したヒト研究の論文、などを紹介します。

※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

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目次

2024年6月17日:最新論文4報

キシリトールが心疾患リスクを高める European Heart Journal誌

キシリトールの摂取が心血管疾患リスクの上昇と関連することを報告した論文。

タイトルは

Xylitol is prothrombotic and associated with cardiovascular risk

https://academic.oup.com/eurheartj/advance-article-abstract/doi/10.1093/eurheartj/ehae244/7683453

 

キシリトールは、砂糖の数千倍の甘みを呈するにも甘味料にもかかわらずカロリーが砂糖より大幅に低いことが知られており、日本では「キシリトールガム」などで特定保健用食品にも利用されている甘味料です。

今回の研究では、キシリトールの摂取量が将来の心疾患リスクの上昇と関連することが報告され、Twitter界隈でも話題になっていました。

 

この研究では、以下のようにコホート研究・動物試験・ヒト介入試験で何度も確認を行っています。

・前向き探索コホートで、心疾患リスクと関連するノンターゲットメタボロミクスを行ったところ、キシリトールが候補として出てきた。

・検証コホートでは、血中キシリトール濃度を測定して情報を追加しつつ、このコホートでも同様の関連がみられた。

・動物試験でキシリトールを摂取させると、血栓形成を促すバイオマーカーの上昇が確認された。

・上記のバイオマーカーの上昇は、キシリトールを摂取するヒト介入試験でも同様に確認された。

 

今後、メカニズムの詳細も明らかになっていくかもしれません。

インフルエンザの感染・増殖にグルタミン酸受容体が関与 Nature Microbiology誌

インフルエンザウイルスが細胞内へ侵入・感染する際に、グルタミン酸受容体mGluR2を直接認識して利用しているという論文。

タイトルは、

Influenza virus uses mGluR2 as an endocytic receptor to enter cells

https://www.nature.com/articles/s41564-024-01713-x

 

インフルエンザウイルスは宿主に感染する際、表面に出ているヘマグルチニンを宿主細胞表面にあるシアル酸受容体に結合させて細胞内にエンドサイトーシスで侵入していきます。

しかし論文によると、受容体認識後にエンドサイトーシスで細胞内へ取り込まれるまでの間のシグナル伝達機構は分かっておらず、どのようなシグナルが関連しているかはわかっていなかったそうです。

この論文では、上記のシグナル伝達において2つの受容体「potassium calcium-activated channel subfamily M alpha 1 (KCa1.1)」と、「metabotropic glutamate receptor subtype 2 (mGluR2) 」の関与を明らかにしたそうです。

特に、グルタミン酸受容体であるmGluR2はインフルエンザウイルスのヘマグルチニンを直接認識することで、エンドサイトーシス開始のシグナルを走らせていることを報告しています。

 

実際、mGluR2のKOマウスを作成してインフルエンザウイルスを投与しても、肺での増殖や脳への転移が抑えられたことが確認されており、この受容体の役割の大きさを感じさせられます。

 

脂肪酸代謝酵素の遺伝子多型が、EPAの有効性を決める AJCN誌

エイコサペンタエン酸(EPA)による大腸ポリープ予防効果に、脂肪酸代謝酵素FADS1の遺伝子多型が関わる可能性を示したヒト試験。

タイトルは

Fatty acid desaturase insertion-deletion polymorphism rs66698963 predicts colorectal polyp prevention by the n-3 fatty acid eicosapentaenoic acid: A secondary analysis of the seAFOod polyp prevention trial

https://ajcn.nutrition.org/article/S0002-9165(24)00527-6/fulltext

 

FADS1は脂肪酸代謝酵素の一つで、体内に存在する脂肪酸の特定の位置を不飽和化(単結合をシス型二重結合にする)する働きを持っています。

この酵素により、オメガ6脂肪酸の一種アラキドン酸が多く合成され、このアラキドン酸を起点に体内でさまざまな炎症性脂肪酸代謝物が作られていくことが知られています。

一方で、オメガ3脂肪酸のEPAからはさまざまな抗炎症性の脂肪酸代謝物が作られますが、その酵素はアラキドン酸とほぼ同じものを使用しています。

すなわち、食事から摂取したEPAの抗炎症効果を効率よく得るには体内でアラキドン酸濃度が低い方がよく、FADS1の働きがあまり強くない(=アラキドン酸があまり作られない)ほうが望ましいかもしれないという仮説があります。

この研究では、EPAをアスピリンと併用することで大腸ポリープの予防につながるかを調べた過去の介入試験の二次解析を行っており、大腸ポリープ予防に対するEPAの有効性がFADS1の遺伝子型で変化するかを確認しています。

結果として、FADS1rs66698963の遺伝子多型をもとにサブグループ解析を行った結果、遺伝子型によってEPAの有効性が異なることが確認され、FADS1遺伝子型に伴う脂肪酸代謝の個人差がEPAの有効性にかかわっている可能性を示唆しています。

そのメカニズムの仮説としては冒頭の通りで、FADS1の遺伝子型によって体内でアラキドン酸を合成する能力が高い人と低い人がおり、この差がEPA摂取後の代謝・抗炎症性代謝物の産生にかかわっているのではと考察されます。

 

クリームチーズ製造工程で、Caを減らしても影響はないのか? Food Chemistry誌

クリームチーズ製造工程で、通常工程に加えて陽イオン交換を行った際に、製品の成分・物性与える影響を調べた論文。

タイトルは

Modulation of cream cheese physicochemical and functional properties with ultrafiltration and calcium reduction

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308814624016601

 

クリームチーズを向上などで製造する際、通常は限外濾過を行い、酸性のホエイが過剰に出ることを防いでいるようです。

この研究では、限外濾過に加えて陽イオン交換を行ってCaイオンを低減することで、酸性ホエイの排出量を減らしつつチーズの物性への影響を最小限にできないかを調べたようです。

「クリームチーズ製造中にCa濃度を下げるのって、酸性ホエイの過剰分泌を減らすにはいい方法なんだよな~。結構物性が変わっちゃうらしいけど、方法調整すればうまくいくんじゃないかな?」

というのがモチベーションのようです。

 

論文では試行錯誤を経て様々なデータを取っていますが、以下のようにまとめています。

・Caの低減は酸性ホエイを減らすにはよい方法。

・Caを減らすと、チーズ中のペプチドが減ってしまうが、熱安定性が高まる。

・チーズの硬さ・粘性への影響は限定的である。

 

私はチーズの製造などには関わっていませんが、食品加工における化学的な知識やその応用が、普段口にするチーズの物性・味・栄養などに大きく貢献していることを再認識させられました。

終わりに

今回は、キシリトール摂取と心疾患リスクの関連を調べた論文、インフルエンザウイルスの細胞新入メカニズムの論文、脂肪酸代謝酵素とEPAの有効性を調べた論文、などを紹介しました。

この記事では食品・栄養系の論文が中心になりましたが、普段はこの領域以外の論文もたくさん掃海していますので、別の記事もぜひご覧くださいませ。

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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