腸内細菌が生理活性物質の合成分解などに関わり、宿主の健康に大きく関わっていることは広く知られています。
その影響範囲はすさまじく、生理活性物質の代謝を通して疾患発症や予防にも強く関わっている細菌も多数見つかっており、実際医学領域へ応用されています。
一方で、通常体内で合成され、その状態が年齢に応じて変化していく、テストステロンやエストラジオールなどの性ホルモン。
何と、これら性ホルモンの合成や分解にも腸内細菌が大きく影響し、性ホルモンが原因となるうつ症状や妊娠期の体内状態の変化にもかかわっていることが分かってきているようです。
今回は、「腸内細菌が性ホルモン合成・代謝にかかわっている驚きの論文」を3報紹介します。
※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
腸内細菌が性ホルモン代謝にかかわっている驚きの論文3報
エストラジオールを分解し、閉経前女性の鬱発症にかかわる腸内細菌 Cell Metabolism誌
閉経前女性のうつ症状発症と関連する腸内細菌Klebsiella aerogenesを見つけ、 この菌がエストラジオールを分解する酵素を持っていることを明らかにした論文。
タイトルは、
Gut-microbiome-expressed 3β-hydroxysteroid dehydrogenase degrades estradiol and is linked to depression in premenopausal females
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1550413123000530
この菌を投与したメスマウスでは血中エストラジオール濃度が下がり、うつ症状が強くなったそうです。 また、この菌はうつ症状がある閉経前女性において存在割合が高いそうです。
テストステロンを分解し、男性の鬱症状を促す腸内細菌 Cell Host & Microbe誌
先ほどと同じ研究グループからの論文。男性ホルモンの一種テストステロンを変換する腸内細菌Mycobacterium neoaurumを見つけ、この菌をマウスに飲ませるとうつ症状が悪化することを明らかにした論文。
タイトルは
3β-Hydroxysteroid dehydrogenase expressed by gut microbes degrades testosterone and is linked to depression in males
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312822000373
うつ症状を持つ男性においてこの菌の存在割合が高いことも確認しており、この細菌によるテストステロン分解が男性の鬱症状と強く関連している可能性が示唆されています。
腸内細菌が水素ガスでコルチコイドからプロゲスチンを作る Cell誌
腸内細菌2種が、水素ガスを使って腸管内でコルチコイドを性ホルモンであるプロゲスチンへ変換することを明らかにした論文。
タイトルは
Gut bacteria convert glucocorticoids into progestins in the presence of hydrogen gas
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092867424005142
この研究がすごいのは、腸内細菌によるプロゲスチン合成が妊娠中の体内濃度に影響する可能性を示したことにあり、実際に妊娠後期女性の糞便でプロゲスチン濃度とこの代謝遺伝子を持つ細菌の割合が増加していたことも確認しています。
終わりに
今回は、腸内細菌が性ホルモンを合成・代謝し、宿主のうつ症状や妊娠適応と関連していることを示した論文を紹介しました。
腸内細菌が性ホルモンの制御にまで関わっていることは衝撃的ですし、改めて腸内細菌の影響の大きさを感じます。
自分の腸内細菌叢の特徴や状態を早めに知っておくことは、ライフステージごとの性ホルモン関連の問題にも適切に対処するヒントとなるかもしれません。
コメント