2024年6月24日:ヒトの生物学的年齢を臨床データから算出など最新論文4報

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この記事では2024年6月上旬~中旬に出版された最新論文を4報紹介します。

「臨床データからヒトの生物学的年齢を算出」という面白い取り組みを示した研究や、「動脈硬化病巣まで直接到達し、現場で活性酸素を除去して治療する」という信じがたいナノ技術を開発した論文、「樹状細胞の老化が抗腫瘍免疫を弱めている」、「栄養不良の子供に栄養介入をした際の腸内細菌叢の変化」などを調べた論文を紹介します。

※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

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目次

2024年6月24日:最新論文4報

臨床データからヒトの生物学的年齢を算出し、老化研究に応用 Nature Aging誌

ヒト臨床データの主成分分析から個人の生物学的年齢「PCAge」を算出し、臨床試験のの有効性評価に有用である可能性を示した研究。

タイトルは

Principal component-based clinical aging clocks identify signatures of healthy aging and targets for clinical intervention

https://www.nature.com/articles/s43587-024-00646-8

 

生物学的年齢に関する研究は最近よく見かけると思いますが、その指標として「DNAメチル化」などが良く使われています。

しかしこの論文では、DNAメチル化は「実年齢の予測」には非常に有用だが、疾患リスクや死亡率を推定するにはまだ課題が多いと述べており、代替法の必要性に言及しています。

そしてこの論文では、「疾患リスクや死亡率などの予測に有用な生物学的年齢指標」の算出に取り組んでいます。

その結果として実際にいわゆる「臨床データ」を組み合わせた主成分分析(PCAと呼ばれます)という次元圧縮解析から算出される特徴量が、上記の課題を達成した「生物学的年齢」として有用と結論付けています。

そしてこの指標を臨床試験結果の解析に適用できるかも確認しています。

この指標を2年間のカロリー制限を受けた成人への介入試験の結果に適用したところ、介入群で対象群よりも老化率が低かったことも確認しており、臨床研究へ十分利用できる可能性を示しています。

動脈硬化病巣まで直接到達して治療するナノシート素材 Nature Nanotechnology誌

動脈硬化巣まで到達しての活性酸素種を除去し、症状を治療できるナノシート素材を開発したという論文。

タイトルは

Resolvin D1 delivery to lesional macrophages using antioxidative black phosphorus nanosheets for atherosclerosis treatment

https://www.nature.com/articles/s41565-024-01687-1

 

アテローム性動脈硬化症の治療には様々な方法が使われているようですが、炎症部位ピンポイントで症状を改善させ、疾患全体の治療につなげていく治療法の開発が盛んなようです。

そしてこの研究では、アテローム性動脈硬化症の炎症部位に直接送達でき、炎症部位特異的な治療を実施できるナノ素材「black phosphorus nanosheets(日本語だと、黒リンナノシート?)」を開発したことを報告しています。

細かい原理はちょっと理解できませんでしたが、炎症部位に到達したこのナノシートは、そこで活性酸素種の除去できる活性を有しており、これにより炎症の進行を食い止め、動脈硬化の治療につなげているようです。

さらに面白いことに、このナノシートには抗炎症性脂質である「レゾルビンD1」を結合させることができるそうです。

これにより、病巣に届いた際には活性酸素除去だけでなくレゾルビンD1の抗炎症作用も同時に発揮されるようになるらしく、動物試験でも良好な結果が得られたようです。

 

樹状細胞の老化が抗腫瘍免疫を弱めている Cell誌

老化マウスでは、樹状細胞(DC)の活性が若年マウスより低く、これにより免疫チェックポイント阻害剤による抗腫瘍効果も低下することを示した論文。

タイトルは、

Correction of age-associated defects in dendritic cells enables CD4+ T cells to eradicate tumors

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(24)00535-X

 

この研究で最初に、腫瘍に対するPD-1やCTLA-4の免疫療法を適用した際に、若齢マウスと比較して老齢マウスでは腫瘍の改善がなかなかできないことを示しており、老化によりガン免疫のどこかで機能不全が起きていることを仮説を立ててます。

研究グループはその理由の一つとして樹状細胞の活性に着目し、実際樹状細胞の活性化が若齢マウスより高齢マウスで大きく減退していることを確認しています。

そして仮説通り、高齢マウスの樹状細胞を活性化(本文では過剰発現みたいなニュアンス)させることで、抗腫瘍免疫が獲得できることを示しています。

ただ、若齢マウスと高齢マウスでは腫瘍免疫惹起のメカニズムが異なるようで、若齢マウスではCD8+T細胞が、高齢マウスではCD4+T細胞が、それぞれ直接腫瘍に作用しているようです。

栄養不良児への栄養介入で、腸内細菌叢が劇的に変化 Nature Communications誌

6-14歳の子供に6ヶ月間栄養強化米を摂取させて栄養改善を目指す、カンボジアでの取り組みに関する研究

タイトルは

Faecal microbiota of schoolchildren is associated with nutritional status and markers of inflammation: a double-blinded cluster-randomized controlled trial using multi-micronutrient fortified rice

https://www.nature.com/articles/s41467-024-49093-4

 

発展途上国では約半数近くの子供が栄養不良で発育していることも少なくなく、国によってはその改善に向けた取り組みを行っています。

カンボジアでは、「カンボジアの学童のための栄養強化米」(FORISCA)というプロジェクトが行われており、このプロジェクトにより約9500人の子供が栄養強化米の介入を受け、栄養不良や発育不良の改善に貢献していることが論文の冒頭で述べられています。

この論文では、「介入により腸内細菌叢にどのような変化があったか」に着目して解析が行われており、介入による菌叢の変化や代謝遺伝子の変化、ベースラインの特性と細菌叢の関連について評価しています。

結果としては、

・ベースラインにおいて、栄養不良の状態(貧血、ビタミンA欠乏)と腸内細菌組成にはかなり強固な関連があった。

・介入前後で腸内細菌叢組成が結構大きく変わった。

・介入前後で、腸内細菌における栄養素代謝活性が大きく変わっていた。特に、介入前に鉄欠乏やビタミンA欠乏を持っている人とそうでない人では、変化の仕方が異なる。

といったことが明らかになったそうです。

終わりに

今回は、疾患リスクや死亡率の予測に使えるかもしれないヒトの生物学的年齢、動脈硬化を現場で除去して治療するナノシート、樹状細胞の老化と抗腫瘍免疫、栄養不良児への栄養介入と腸内細菌叢、に関する論文を紹介しました。

疾患リスク予測に関する研究はたくさん出てきていますが、実際の個人の状態をより正確に捉え、生物学的健康全体をある程度正確に見通せる指標がでてくれば、普段の生活において心がけるべきことが一人一人分かりやすくなるかもしれません。

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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