この記事では2024年6月上旬~中旬に出版された最新論文を4報紹介します。
「父親の腸内細菌が子どもに移る」というこれまでの通説から大きく異なる結果を報告した論文や、食物繊維をたくさん食べると満腹感を感じるメカニズムを解明した論文や、適切なファスティング(断食)による健康への影響を評価した論文を紹介します。
※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年6月28日:最新論文4報
父親の腸内細菌が児に移る? Cell Host & Microbe誌
乳児の腸内細菌叢形成に、父親の腸内細菌叢も関わっていることを明らかにした論文。
タイトルは
Paternal and induced gut microbiota seeding complement mother-to-infant transmission
https://www.cell.com/cell-host-microbe/fulltext/S1931-3128(24)00176-8
これまでの通説では、腸内細菌は母親から子供に垂直伝播していること、そしてその傾向は経腟分娩で強く、帝王切開では母親から腸内細菌をうまく受け継げていけないことが多い、というものでした。
母親から腸内細菌を受け継ぐことが子どもの発育に大きく影響している可能性も示唆されており、その対処法として帝王切開児に母親の糞便懸濁液や膣液を適切に移植するといった研究もなされています。
上記が通説の中で、本研究では父親の腸内細菌も乳児に伝播しており、しかも母親由来の菌叢とうまくシンクロして乳児の菌叢形成に貢献していることを報告しています。
また、母親では経腟分娩or帝王切開で乳児腸内細菌への影響が大きく変わるといわれていますが、父親については分娩形態による影響の差は確認されなかったと、この研究では示されています。
少し気になったのは、母乳に含まれる主要オリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖)を代謝できる微生物は主に母親から伝播しているという点で、菌の種類ごとに父親or母親からの受け継ぎやすさがあり、乳児腸内での代謝活性に関与している可能性もありそうです。
食物繊維をしっかり取ると満腹感を感じるメカニズム Science Translational Medicine誌
食物繊維が豊富な食事をとることで満腹感が得られるメカニズムを解明したヒト介入試験の論文。
タイトルは
Diet shapes the metabolite profile in the intact human ileum, which affects PYY release
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.adm8132
この研究は「食物繊維が食用を抑制するメカニズム、全然わかってないじゃん!」ということに着目し、実際に高繊維食と低繊維食をヒトに摂取してもらる介入試験(クロスオーバー試験)をデザインし、食欲調節や満腹感のメカニズムに迫っています。
この研究はそのやり方がすごくて、被験者は食品介入を受けている4日間、鼻からチューブを入れられた状態で過ごし、高繊維食もしくは低繊維食を摂取した後に継時的に小腸内容物を鼻から通したチューブを介して採取されています。
そして採取されたサンプルに含まれる栄養素・代謝物・ヒト由来のホルモンなどを分析し、満腹感とつながるメカニズムを調べています。
研究の結果、高繊維食の摂取した群では、回腸(小腸の一部分)で採取された内容物では、食欲抑制作用を示すペプチドホルモンであるpeptide YY (PYY)が多量に分泌されいることを確認し、これが食欲抑制(=満腹感)につながっていることを特定しています。
そしてその理由として、食品の消化で生じたアミノ酸類がL細胞からのPYY分泌にかかわっていることを明らかにしています。
適切なファスティングは高齢者認知機能維持に貢献? Cell Metabolism誌
「5:2間欠絶食」という、1 週間のうち2 日連続で摂取カロリーを適切に制限する食事療法が、高齢者の体組成や認知機能に影響するかを調べた介入試験。
タイトルは、
Brain responses to intermittent fasting and the healthy living diet in older adults
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1550413124002250
この研究で実施している「5:2間欠絶食」とは、1週間のうちの連続2日間について摂取カロリーを480kcalにとどめる方法で、インスリン抵抗性や脂質代謝の改善に有効であることが知られています。
この論文によると、この間欠絶食は認知機能について有効である可能性が示唆されているものの、ほかの食事療法(健康的な食事を支持する介入など)と比較あるいは組み合わせた際の有効性、および脳への影響についてはまだ不明で、この点を調べることに意義があると述べています。
そしてこの論文のヒト介入試験では、、インスリン抵抗性があるものの認知機能に問題がない高齢者を対象に2群を設定し、「①健康な食事療法のみ」と「②健康な食事療法+5:2間欠絶食」に割り付け、認知機能への有効性や脳MRIの画像解析などをしています。
結果として、「②健康な食事療法+5:2間欠絶食」の方が、体重減少率が良く、認知機能の中でも実行機能と記憶力の改善がみられたと報告されています。
ファスティングの有効活用が、糖尿病者の血糖コントロールに貢献 JAMA Network Open誌
II型糖尿病の成人に「5:2間欠絶食」という週2 日連続で摂取カロリーを適切に制限する食事療法をすると、血糖を適切にコントロールできることを確認した介入試験。
タイトルは
A 5:2 Intermittent Fasting Meal Replacement Diet and Glycemic Control for Adults With Diabetes: The EARLY Randomized Clinical Trial
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2820237
こちらの論文も一つ上の論文と同じ、「5:2間欠絶食」の有効性を評価したヒト介入試験です。
対象者はⅡ型糖尿病成人、主要評価項目をヘモグロビンA1cに設定し、8週間の介入を行っています。対照群は2つ置いており、いずれもプラセボではなく、metformin投与群、empagliflozin投与群が設定され、比較対照とされています。
そして結果は驚くことに、薬剤投与群と比較して、間欠絶食群の方がヘモグロビンA1cの低下が短期間で確認され、体重減少率も間欠絶食群の方が良好だったと示されています。
医薬品以上に効果を出す食事指導、ポテンシャルがすさまじいなと感じる論文でした。
終わりに
今回は、父親の腸内細菌が子どもに伝播する、食物繊維が満腹感につながるメカニズム、ファスティングによる認知機能や血糖コントロールにつながることを確認したヒト試験、に関する論文を紹介しました。
最近、父親の要因が子どもに伝わり発育に影響する論文がたくさん出てきています。母親の影響だけでなく父親の関わり方も無視できなくなりつつあることを感じさせられます。今後様々な情報がでてくるでしょう。
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