2024年7月1日:腸内細菌のトリプトファン代謝を食物繊維で制御!など最新論文4報

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この記事では2024年6月中旬~下旬に出版された最新論文を4報紹介します。

今週は腸内細菌に関する論文が目立ちました。この記事では、短鎖脂肪酸産生予測やトリプトファン代謝に関する論文、Ⅱ型糖尿病患者で世界的に共通する腸内細菌叢の特徴を調べた論文などを紹介します。

 

※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

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目次

2024年7月1日:最新論文4報

腸内細菌叢でのトリプトファン代謝を食物繊維で制御する Nature Microbiology誌

食物繊維摂取により腸内細菌叢でのトリプトファン代謝動態が変わり、有益な代謝物が増えることを示した論文。

タイトルは

Dietary fibre directs microbial tryptophan metabolism via metabolic interactions in the gut microbiota

https://www.nature.com/articles/s41564-024-01737-3

 

トリプトファンが腸内細菌によって様々なインドール性代謝物(インドール乳酸、インドール酢酸、など)に変換され、宿主の健康維持などに貢献しているという論文はここ数年一気に増えています。

一方で、慢性腎臓病に関わるといわれているインドールもトリプトファンの腸内細菌代謝物であり、トリプトファン代謝物すべてが宿主にとっていいものというわけでもありません。

そのため、「宿主に有益なトリプトファン代謝物が多く作られる腸内細菌叢の特徴とそれに近づく方法」が明らかにされる必要があり、この論文ではその解明に取り組んでいます。

この論文で面白かったのは、

「トリプトファン代謝物のプロファイルは、酵素を持つ細菌の組成ではなく、酵素を持つ細菌の遺伝子発現調節が行われることで変化する」

という点です。

すなわち、トリプトファンは異なる代謝遺伝子を持つ細菌が中間体を受け渡しながら代謝されており、その代謝動態は細菌の代謝酵素の遺伝子発現によって制御されている、ということを明らかにしています。

そしてこの論文では、食物繊維を適切に摂取することにより、トリプトファン代謝遺伝子を持つ細菌の遺伝子発現変動が誘導され、細菌叢全体として有益なトリプトファン代謝物が作られるようになる、と結論付けています。

一般的に細菌の存在割合で議論される腸内細菌叢と代謝物の関連ですが、今後の研究では細菌の遺伝子発現を制御する因子の影響まで考慮する必要が出てくるかもしれません。

腸内細菌叢データから、個人の短鎖脂肪酸産生を予測する Nature Microbology誌

酢酸、プロピオン酸、酪酸などの腸内細菌由来短鎖脂肪酸の産生を、一人一人予測できるモデルを開発したという論文。

タイトルは

Microbial community-scale metabolic modelling predicts personalized short-chain fatty acid production profiles in the human gut

https://www.nature.com/articles/s41564-024-01728-4

 

短鎖脂肪酸は言わずと知れた腸内細菌由来代謝物群の代表格で、大腸上皮細胞のエネルギー源として使われるだけでなく、免疫細胞の分化や機能変化、迷走神経を介した脳へのシグナル伝達、エネルギー代謝制御など、様々な場面で活躍している代謝物です。

しかし、腸内細菌叢が主に産生しているため、短鎖脂肪酸の分泌プロファイルについては個人の細菌叢組成に依存しており個人差が大きく、正確に予測するのは困難であったようです。

この論文では、事前に細菌の系統樹や遺伝子情報を整理した「MCMM」というモデルを構築し、そこに糞便細菌叢解析や糞便培養ex vivo実験から得られた細菌叢データと代謝物データを追加することで、短鎖脂肪酸を予測できるモデルの構築に成功しているようです。

しかもこの論文はこのモデルを使い、食物繊維やビフィズス菌などのプレバイオテクスやプロバイオテクスを摂取した際に、一人一人の短鎖脂肪酸産生がどのように変化するかを予測することにも成功しています。

実際にヒトにプレ/プロバイオを摂取してもらった介入試験の結果を使用して、モデルの精度や有用性を確認しています。

この論文はいわゆる「個別化栄養」を実装した論文です。現在一部アカデミアや食品メーカーなどが個別化栄養の実現などに取り組んでいますが、本論文のような先行事例から学ぶことは多いのかもしれません。

 

Ⅱ型糖尿病者に共通する腸内細菌叢の特徴を解明 Nature Medicine誌

世界各国のコホートから腸内細菌叢メタゲノムデータを取得し、II型糖尿病と関連する腸内細菌叢の特徴を調べた研究。

タイトルは、

Strain-specific gut microbial signatures in type 2 diabetes identified in a cross-cohort analysis of 8,117 metagenomes

https://www.nature.com/articles/s41591-024-03067-7

 

Ⅱ型糖尿病と腸内細菌叢の関連についてはすでにたくさんの報告が存在します。

ただしこの論文によると、これまでの研究結果には一貫性がなく世界共通の特徴は見出されていなかったとのこと。そして、もし共通の結果が得られれば、各菌の特徴と糖尿病発症のメカニズムを詳細に評価できるだろう、と仮説を立てています。

そして研究では、世界10コホート(アメリカ、ヨーロッパ、イスラエル、中国)のべ8000人のショットガンメタゲノムデータを取得し、Ⅱ型糖尿病患者、糖尿病前臨床者、健常者で腸内細菌叢を比較し、Ⅱ型糖尿病の進行との関連を評価しています。

結果として、

①糖尿病で増加する菌(Clostridium bolteae)や減少する菌(Butyrivibrio crossotus)がいること、

②これらの細菌の中にはグルコース代謝異常と関連する遺伝子が多く腸内細菌の糖代謝異常が発症と関連している可能性があること、

③酪酸産生に関する遺伝子にも変動があり、酪酸による炎症抑制機構が発症抑制とかかわっている可能性があること、

などを明らかにし、細菌の機能が宿主の糖代謝異常と密接につながっている可能性を示唆しています。

 

ワインの産地、品種、年代などを予測するAI Food Chemistry誌

ワインの産地、品種、年代を予測できるAIを開発したという論文

タイトルは

Fusing 1H NMR and Raman experimental data for the improvement of wine recognition models

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308814624018958

 

近年、メタボロミクスの技術を食品領域に展開した「フードミクス」という言葉も登場してきているように、食品領域においてもオミクスデータを使ったデータ分析や予測モデル作りは広く行われるようになりました。

画像解析を使った農産物の自動出荷判定、成分分析データをもとに類似する食品加工品の特徴をそれぞれ定義する、といった使われ方はよく目にするようになりました。

この論文では「ワイン」に注目し、解析データから産地、品種、年代などを予測できるモデルを作っています。

論文のイントロ読むと、特にワインにおいては「品種」「年代」などがそのまま価値となるため、偽装された商品が後を絶たず、簡便にこれらを判別する手法が求められていたようです。 

この論文で作った予測モデルでは、1H-NMRのメタボロミクスデータと、ラマン分光スペクトルが説明変数として使われています。(分析前に少し前処理は必要ですが)どちらも非破壊で分析できるという強いメリットがあり、以前からワインに関する判別モデル構築には使われていたようです。

NMRメタボロミクスデータとラマン分光スペクトルを組み合わせて作られた今回のAIモデル。その予測精度はなんと95%という驚異的な数値をたたき出しています。

もはや「飲まずに当てることができるソムリエ」です。

終わりに

今回は、腸内細菌叢によるトリプトファン代謝や短鎖脂肪酸産生との関連に迫った研究、Ⅱ型糖尿病者の腸内細菌叢の特徴を特定する研究、ワインの予測モデルを作った論文を紹介しました。

腸内細菌が作る栄養成分由来代謝物についてたくさん研究がされていますが、それらを制御する方法や予測する手法はこれからもたくさん出てくると思います。

予測するだけでなくそれを社会実装して活かす取り組みも今後出てくると思うので、引き続き注目です。

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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