この記事では、直近半年程度の間で出版された「グルタミン」「グルタミン酸」が重要な役割を果たしていた論文を紹介します。
栄養素としてのアミノ酸、味の素としてだけでなく、TCA回路の前駆体や受容体リガンドとしても活躍するグルタミン酸やグルタミン、今後もたくさん論文でてくることでしょう。
※本ブログは、直近半年以内程度で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年7月3日:グルタミン/グルタミン酸の活躍の幅の広さを感じさせられる論文4報
食事由来グルタミン酸が食欲を調節する? Nature Communications誌
まずは食事から摂取したグルタミン酸と食欲調節の関連を報告した論文。
タイトルは
Dietary L-Glu sensing by enteroendocrine cells adjusts food intake via modulating gut PYY/NPF secretion
https://www.nature.com/articles/s41467-024-47465-4
これまでの研究で、腸管内を流れているアミノ酸を腸管内分泌細胞(EEC)が感知し、食欲に関するホルモンの分泌などが行われている可能性は示唆されていたようです。
しかし、そのメカニズムやEECが分泌する食欲調節ホルモンがどのように作用しているかは不明だったようです。
この論文では主にハエモデルを使用して上記の検討を行っています。
まず、EECを除去したハエでは食欲抑制機構が働かなくなることを確認し、さらにこの現象がEECの代謝性グルタミン酸受容体(mGluR)を介していることを発見します。
そして、グルタミン酸がmGluRを介して食欲調節機構が働くこと、EECから神経ペプチドNPF(ヒトでの食欲抑制ペプチドPYYに相当)の分泌が行われていることを明らかにしています。
グルタミン酸が大腸内分泌細胞を介して肥満を予防する? Nature Metabolism誌
次も腸管内分泌細胞(EEC)とグルタミン酸の関連の論文で、特に大腸のEECが肥満予防と関連していることを明らかにした論文。
タイトルは
Interaction between the gut microbiota and colonic enteroendocrine cells regulates host metabolism
https://www.nature.com/articles/s42255-024-01044-5
先ほどの論文で紹介したEECは主に小腸を想定した研究でした(ハエではありましたが…)。
論文によると小腸EECに着目した研究は多いものの、大腸EECの役割について調べた研究は少なかったようです。
この研究ではまず大腸EEC欠損マウスを使用してその影響を確認し、欠損により過食と肥満が進むことを見つけ、大腸EECも食欲調節とかかわることを確認しています。
そのメカニズムを調べる中で、どうやら大腸EECの存在有無により腸内細菌叢が激しく変動すること、その際のグルタミン酸量が大きく変動すること、グルタミン酸投与により大腸EECを介した食欲抑制作用が発揮されることを明らかにしています。
グルタミン酸受容体がインフルエンザ感染にかかわる Nature Microbiology誌
グルタミン酸受容体mGluR2が、インフルエンザウイルスが細胞内へ侵入・感染する際に利用されていることを明らかにした論文。
タイトルは
Influenza virus uses mGluR2 as an endocytic receptor to enter cells
https://www.nature.com/articles/s41564-024-01713-x
インフルエンザウイルスの多くは、クラスリン依存性エンドサイトーシスで細胞内に侵入するそうですが、その際には何らかの細胞側の受容体を認識しているはずですが、どの受容体を介しているかは不明だったようです。
この論文では、その受容体がmGluR2であることを突き止め、同時にpotassium calcium-activated channel subfamily M alpha 1 (KCa1.1)というイオンチャネルも利用することで細胞内に侵入できることを明らかにしています。
mGluR2ノックアウトマウスではインフルエンザウイルスが定着しないという点も興味深いです。
一方で、なぜmGluR2なのか、グルタミン酸と何らかの競合は発生していないのか?などについても疑問が残りますね。
グルタミンはCD8+T細胞の重要なエネルギー源 Science Advances誌
最後はグルタミンに関する論文で、グルタミンが免疫細胞のエネルギー源となっていることを報告した論文。
タイトルは、
13C metabolite tracing reveals glutamine and acetate as critical in vivo fuels for CD8 T cells
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adj1431
この論文の趣旨は、「感染症に罹患した際の免疫細胞の代謝動態を知りたいから、感染マウスに13C安定同位体を投与して動態を観察しよう!」というものです。
そのため論文では、リステリアに感染したマウスに複数の炭素源(グルコース、グルタミン、酢酸)のそれぞれの安定同位体を投与し、13Cの動態を追いかけることで代謝動態を明らかにしています。
結果、感染症罹患時に主に活性化するCD8T細胞が活性化時に特にグルタミンをエネルギー源として活用し、ATP合成や細胞増殖に利用していることを明らかにしています。
しかし成熟後は炭素源をグルタミンから酢酸へ切り替えていることも観察しており、免疫細胞はその活性フェーズによって炭素源を切り替えていることを発見しています。
終わりに
今回は、グルタミン/グルタミン酸、およびその受容体を主に扱った論文を4報紹介しました。
栄養素としてのアミノ酸だけでなく、食欲調節にかかわっていたり、ウイルス感染の起点となっていたりなど、アミノ酸とその受容体は生体内のあらゆる場所で活躍していることが見て取れますね。
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