この記事では2024年6月下旬~7月上旬に出版された最新論文を4報紹介します。
構造予測モデルで経口摂取できるサイトカイン阻害タンパクを開発した論文、ニキビの原因菌として知られているアクネ菌の遺伝子型の多様性を調べた論文、ケトン食の肥満抑制メカニズムに迫った論文、ビタミンDと脂質代謝の関連を調べた研究、を紹介します。
※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年7月5日:最新論文4報
構造予測モデルで経口摂取サイトカイン阻害タンパクを設計 Cell誌
構造予測モデルを使ってIL-17AとIL-23Rを阻害する経口摂取できるタンパクを設計・作成したという論文。
タイトルは
Preclinical proof of principle for orally delivered Th17 antagonist miniproteins
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00631-7
Alfa Fold3をはじめ、近年タンパク質の立体構造予測に関する技術の進歩はすさまじく、このタンパク工学の技術は医療領域にもどんどん進出しています。特異性の高い抗体の設計などはよく行われていますね。
この研究では、ワシントン大学の構造予測モデル「RoseTTAFold All-Atom」を使い、「経口摂取可能な抗サイトカインタンパク質」の設計と、その前臨床研究を行っています。
具体的には、Th17が強く関わる疾患(炎症性腸疾患、乾癬、など)を視野に入れ、IL-17やIL-23Rに対する阻害タンパクを設計・製造し、経口摂取によりその有効性が発揮されるかを確認しています。
かなりの検討を行った結果として、シミュレーションから予測された結合部位に特異的に作用し、経口摂取時の胃酸の分解から逃れられ、腸管から血中へ吸収されるタンパクの開発に成功しています。
そして、炎症性腸炎モデルのヒト化マウスへ経口投与すると、Th17活性を抑え症状が改善したことも確認しています。
皮膚アクネ菌遺伝子型と皮膚疾患の関連を調べる Cell Host & Microbe誌
皮膚常在のアクネ菌を正常・アトピー・ニキビのヒトから約1200株採取し、ゲノム・代謝物の特徴を比べた論文。
タイトルは
Multi-omics signatures reveal genomic and functional heterogeneity of Cutibacterium acnes in normal and diseased skin
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1931312824001963?via%3Dihub
アクネ菌(学名:Cutibacterium acnes)は皮膚常在細菌の一種で、皮膚免疫の維持に重要な役割を果たしている一方で、ニキビの発症にも関わっていることが知られています。
論文によると、皮膚の主要細菌であるアクネ菌はヒトによって様々な菌株が存在しているはずだが、実際に多くの人から集めて遺伝子型を解析した研究はなく、皮膚免疫にかかわる「善玉」なアクネ菌と、ニキビなどの発症にかかわる「悪玉」なアクネ菌の具体的な違いはほとんどわかっていなかったそうです。
この研究では、ニキビ、アトピー性皮膚炎、そして疾患がない正常な人たちの皮膚からアクネ菌を採取し、合計1234株を集めてきています。そしてメタゲノム解析、トランスクリプトーム解析、代謝物解析を行い、各疾患と菌株の特徴を紐づけています。
結果として、
・皮脂の多い皮膚の株は、ケラチノサイトに対する毒性が強く、炎症誘導活性が高い。
・アトピー性皮膚炎の皮膚にいる菌株はL-カルノシンを分泌し、抗炎症効果に寄与している可能性がある。
という、なかなかユニークな特徴が分かってきたようです。
ケトン食による肥満抑制メカニズムに迫った研究 Nature Metabolism誌
ケトン食による肥満抑制のメカニズムについて、腸内細菌叢やその代謝物から迫った研究。
タイトルは、
Ketogenic diet-induced bile acids protect against obesity through reduced calorie absorption
https://www.nature.com/articles/s42255-024-01072-1
肥満の人に対する適切なケトン食介入が、体重減少や中性脂肪低下につながることが報告されるなど、その有用性が明らかになってきています。
一方でこの論文によると、体重減少や脂質代謝改善につながるメカニズムについては分かっていないことが多く、基礎研究によって明らかにすることが重要であると述べています。
この研究では、ケトン食による効果は腸内細菌叢や代謝物が媒介しているという仮説を立て、動物試験を通して関与する細菌や代謝物を突き止めています。
その結果、胆汁酸加水分解酵素を持つ腸内細菌が減り、血中胆汁酸代謝物が変化して肥満抑制につながること明らかにしています。
また、ヒトデータに戻った解析も行っており、ケトン食介入をした肥満・太り気味の人でも、胆汁酸加水分解酵素と胆汁酸組成が同じような変化を示したそうです。
ビタミンDが肝臓脂肪蓄積の制御にかかわるメカニズム Cell Reports誌
食事性ビタミンDおよびビタミンD受容体が、肝臓の脂肪蓄積やエネルギー代謝を調節していることを明らかにした、ゼブラフィッシュ実験の論文
タイトルは
Hepatocyte vitamin D receptor functions as a nutrient sensor that regulates energy storage and tissue growth in zebrafish
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(24)00721-6
ビタミンDはヒトでは皮膚を日光に当てることで合成できるビタミンとして知られていますが、一方で食事からも一定量摂取することが重要です(シイタケに多いですね)。
そしてビタミンD、骨の形成に重要であると知られている一方で、欠乏すると肝臓の脂肪蓄積につながることも報告されていたとのこと。しかし、そのメカニズムに詳細に踏み込めた研究はなかったようです。
この研究では、肝臓の脂肪蓄積においてビタミンD受容体(Vdr)が関与していると仮説を立ています。
そして、Vdrを機能不全にした動物や食事からのビタミンDを欠乏させた動物において脂肪肝が進むことを明らかにし、そのメカニズムとして肝臓でのVdrを介したシグナルが脂肪酸β酸化を抑制し脂肪分解が止まることを突き止めています。
この実験では、動物としてゼブラフィッシュが使われています。
私は使用したことがないですが、脊椎動物における骨やその他発育を評価する上で有用な動物として、最近結構使われるようになってきています。
終わりに
今回は、構造予測から経口摂取できるサイトカイン阻害タンパクを開発した論文などを紹介しました。
Alfa Fold 3やRoseTTAFold All-Atomを使ったタンパク設計やその実用化については、今後どんどん研究が出てきそうです。
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