2024年7月12日:食事摂取状況を把握するバイオマーカーはつくれる?など最新論文4報

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この記事では2024年7月上旬に出版された最新論文を4報紹介します。

※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

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目次

2024年7月12日:最新論文4報

食事摂取状況を予測できるバイオマーカーはつくれるか? Nature Metabolism誌

個人の食事摂取状況を算出・予測できるバイオマーカーを、ヒト生体試料のオミクスデータから開発できる可能性を議論したレビュー論文。

タイトルは

Towards nutrition with precision: unlocking biomarkers as dietary assessment tools

https://www.nature.com/articles/s42255-024-01067-y

栄養疫学研究において必ずと言っていいほど話題になるのが、

ヒトは、自分が食べたものを正確に把握していない」という問題。

FFQなどのアンケートベースのモノや、実際に食べた量の重量を測定する秤量法など様々ありますが、

どれも長所と短所があるため、「使い分けている」というのが現状です。

 

このような状況の解決を目指して、

生体バイオマーカーやオミクスデータを駆使することで、個人の摂取栄養素の状況を把握できないか?

という取り組みが実施されています。

このレビューでは、上記のアプローチに対して総合的に議論しており、具体的には血液と尿を使って実現することは可能か?という点に焦点を当てています。

詳しくは本文を読んでいただきたいのですが、現状と課題、さらにはこの研究をするにあたっての注意点が網羅されています。栄養学に関わっている人は、ぜひ一度目を通すことをお勧めします。

グルコース以外に強く反応する膵臓インスリン分泌細胞 Cell Metabolism誌

ドナー140人から得た膵島を使い、グルコース・脂質・アミノ酸に対するインスリン分泌のパターンを調べた研究。

タイトルは

Proteomic predictors of individualized nutrient-specific insulin secretion in health and disease

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002916524003897

 

膵臓のランゲルハンス島は、食事から摂取したグルコースに応答してインスリンを適切に分泌する非常に重要な組織であり、1型糖尿病ではこのランゲルハンス島からのインスリン分泌が破綻していることで高血糖状態が続いてしまうことはよく知られています。

一方で、実はランゲルハンス島はグルコースだけに反応せず、その他の栄養素に対しても反応してインスリン分泌を行っている可能性が示唆されていたようですが、その詳細は全く研究が進んでいなかったようです。

そこでこの研究では、亡くなったドナーの皆様から膵臓を採取し、得られたランゲルハンス等に対してグルコース、アミノ酸、脂質をかけた際のインスリン応答を確認しています。

その結果としてグルコースよりもアミノ酸や脂質に強く反応してインスリンが分泌される細胞サブセットを特定しています。

そしてこれだけにとどまらず、健常者とⅡ型糖尿病者の間での各栄養素への反応性の違いを調べたり、そもそものランゲルハンス島細胞の特徴の違いをRNAseqとプロテオミクスを駆使して調べています。 

 

水溶性食物繊維がアルコール性肝疾患を軽減するメカニズム Cell Host & Microbe誌

水溶性食物繊維の摂取がアルコール性肝疾患を軽減することを、動物試験で確認した論文。

タイトルは、

Dietary fiber alleviates alcoholic liver injury via Bacteroides acidifaciens and subsequent ammonia detoxification

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1931312824002269?via%3Dihub

NASHをはじめとする肝疾患に対する、腸内細菌叢やその代謝物の関連は研究がたくさん出てきています。

その一方で、アルコール性肝疾患に対する関連は相対的に研究が少なかったとのこと。

この研究では、他の肝疾患と同様に、食物繊維の摂取量を増やすことでアルコール性肝疾患の症状を予防・軽減できる可能性があるのではないかと仮説を立て、動物試験を通して有効性とそのメカニズムを調べています。

その結果、

水溶性食物繊維を食べさせたアルコール性肝疾患マウスでは症状が軽減されたこと

腸内細菌叢を調べたところ、Bacteroides acidifaciensの増加が確認されたこと

腸管代謝物を見ると脱抱合胆汁酸が増えており、これが肝臓オルニチンアミノトランスフェラーゼ発現を高めてアンモニアの解毒を促していること

を明らかにしています。

ちょっと気になるのが、与えた食物繊維の情報がすぐに見つけられなかったことです。

見つけられた人がいましたら是非教えてください。

 

胃がん患者の組織からオルガノイドを作って評価する Cell Report Medicine誌

生存中胃がん患者の組織サンプルからオルガノイドを作り、薬剤反応性の評価やスクリーニングに使えるようにしたという論文。

タイトルは

Personalized drug screening using patient-derived organoid and its clinical relevance in gastric cancer

https://www.cell.com/cell-reports-medicine/fulltext/S2666-3791(24)00331-8

ヒト組織を使って基礎研究をしたいと思っても、生存中のヒトから直接組織を採取するのが難しいことが多いことがほとんどです。このような状況を解決する一つの手法として、部分的に採取した組織をもとにオルガノイドを作成して研究するという手法が良くとられています。

例えば、ある疾患に対する有効な薬剤をスクリーニングする際にこのオルガノイドに様々な薬剤を使用するという方法を取ったり、特定の疾患になった際の組織の分化や挙動を観察したり、といったことができますね。

この研究では、生存している胃がん患者から胃がんサンプルを採取してオルガノイドを作成し、薬剤スクリーニング、化学療法に対する応答性の判別モデルの作成、などを行っています。

胃がん患者73人から組織を採取して57個のオルガノイド作製に成功し、それぞれの遺伝子発現などを確認しています。

その後、これらオルガノイドに様々な薬剤をかけて有効な薬剤をスクリーニングできることを示したり、化学療法(5-fluorouracilとoxaliplatin)に対する応答性を判別できる遺伝子発現パネルを作ったりしており、このオルガノイドの利用可能性を示しています。

終わりに

今回はいかがだったでしょうか。

栄養摂取状況を正確に把握する手法の開発は今後も続くはずなので、食品・栄養研究者としてもこの領域はとても注目です。

また、インスリン分泌細胞の中にも栄養素に対する応答性が大きく異なるものがあることが分かったことも、糖尿病などの代謝性疾患との関連が非常に気になる情報だと感じました。

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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