この記事では、直近半年程度の間で出版された「腸内細菌と概日リズム」に関する論文を紹介します。
腸内細菌がヒトの健康に強く関わっていることは広く知られていますが、概日リズムの観点でも関連があることが分かってきています。
さらに、実はヒトと同様に腸内細菌も概日リズムを刻んでおり、リズムによって機能が変化し、宿主にも影響を与えている可能性が報告され始めています。
2024年でもいくつか面白い文献を見つけましたので、ここで紹介します。
※本ブログは、直近半年以内程度で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年7月17日:腸内細菌と概日リズムの関わりを示した論文3報
腸内細菌が概日リズムを刻み、トリプトファン代謝も連動する Cell Reports誌
まず1つ目は、腸内細菌叢のトリプトファン代謝が概日リズムを刻んでいることを示した動物試験の論文。
タイトルは
The microbiota drives diurnal rhythms in tryptophan metabolism in the stressed gut
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(24)00407-8
この論文の研究課題は、急性の強いストレスをヒトやマウスが受けた際に、脳腸相関の観点から、腸や腸内細菌にも悪影響が及ぶのではないか?というところに設定されています。
イントロを読むと、先行研究において概日リズムを刻む腸内細菌の存在が示唆されていたこと、腸内細菌由来のトリプトファン代謝物が宿主のストレス応答と関連していること、という2点に着目し、
急性ストレスをマウスに与えることで腸内細菌の概日リズムが乱れ、トリプトファン代謝の変動を介して宿主のストレス応答に影響しているのではないか?と仮説を立てて調べています。
実際に調べた結果、この仮説が成り立つことを示しており、
・通常マウスに急性ストレスを与えることで、腸管内の微生物によるトリプトファン代謝が変動すること。
・ストレスにより変動した腸内細菌の多くが、トリプトファン代謝遺伝子を持っていること。
・腸内細菌由来トリプトファン代謝物の供給リズムが変わり、宿主側のトリプトファン代謝物濃度や腸管バリア破綻も関わること。
などが報告されています。
乳児の腸内細菌叢に概日リズムがある Cell Host & Microbe誌
2つ目の論文は、乳児の腸内細菌叢と糞便代謝物に概日リズムがあり、リズムで変動すると細菌がいることを明らかにした研究。。
タイトルは
Diurnal rhythmicity of infant fecal microbiota and metabolites: A randomized controlled interventional trial with infant formula
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312824000581
こちらの論文は、大人ではなく乳児の腸内細菌叢に関する研究です。
乳児(0-1歳)の間は腸内細菌叢の変動が激しく、しかもその推移は母乳や離乳食の影響を強く受けています。
特に母乳を飲んでいる間は、母乳特有のオリゴ糖によってビフィズス菌が非常に増えることが知られており、その後母乳をやめることで少しずつ大人の菌叢に近づいていくそうです。
この研究はもともと、乳児に対する「母乳」or「人工乳」or「人工乳±オリゴ糖orビフィズス菌製剤」という介入を行った際に、腸内細菌叢の推移にどのような変化があるかを観察するデザインになっています。
結果として、母乳と人工乳では大きな差があること、人工乳にビフィズス菌製剤を入れることでビフィズス菌が良く増えることを報告しています。
そしてそのサブ解析として、乳児菌叢の多様性が昼夜で優位に異なっていること、細菌の中に概日リズムを刻んでいる細菌(Veillonella、Bacteroides 、Bifidobacterium、Streptococcus、およびClostridium)がいることを発見しています。母乳群以外の人工乳群間で比べると、ビフィズス菌を追加配合した群でリズム菌のOTU数が最も多かったそうです。
また、これらの菌の中はin vitroで培養しても概日リズムを刻んでいるものがいるようで、細菌特有のリズムが刻み込まれていることが示唆されています。
宿主の概日リズムの乱れが腸内細菌叢に影響し、ガン転移につながる Cell Metabolism誌
3本目の論文は、宿主側の概日リズムの乱れが腸内細菌叢に影響し、再度宿主側の健康に影響するパターン。
タイトルは、
Dysfunctional circadian clock accelerates cancer metastasis by intestinal microbiota triggering accumulation of myeloid-derived suppressor cells
https://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(24)00172-4
こちらの論文は先ほどの2つとは異なり、宿主側の概日リズムが乱れることによって腸内細菌叢の代謝などが変動し、代謝物組成が変わることで結果として宿主にも影響があるよ、というロジックになっています。
論文のストーリーとしては、近年概日リズムがガン免疫の有効性にかかわるという報告がある中で、この論文では「がんの転移」にも概日リズムが影響しており、そのメカニズムの一端が腸内細菌にあるよ、という流れになっています。
まず大腸ガン患者のデータを確認し、ガンの転移状況が概日リズムの乱れにより影響を受けていることを確認し、同じように免疫関連細胞の単球や顆粒球も変動していることを見つけます。
その後この現象を動物試験にて確認し、概日リズムの乱れがMDSCのガン組織への集積、機能不全CD8T細胞の蓄積などを引き起こしていることを発見します。そして、MDSCがどのようにガン組織へ集積しているかを調べるメカニズム研究に移行します。
その結果、腸内細菌叢由来代謝物が宿主概日リズムの乱れと関連していることを発見し、胆汁酸代謝物の一つであるタウロコール酸がMDSCの蓄積を誘導してガン組織での免疫機能不全を引き起こし、ガン転移を促しているということを明らかにしています。
終わりに
今回は、腸内細菌と概日リズムの関連を報告した論文を3報紹介しました。
宿主側の概日リズムの乱れが腸内細菌叢に影響するパターンと、腸内細菌自身の概日リズムが宿主の健康に関わっているパターン、2パターンの論文がありました。
特に、腸内細菌が概日リズムを刻むことについては、まだ研究が出始めたころのように感じます。今後面白い論文が続々と出てくることが期待されます。
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