「概日リズム」という単語を耳にしたことがある研究者の皆様は多いと思いますが、
実際にご自身の研究にこの概念を取り込んでいる方はあまり多くないのではないでしょうか?
しかし、直近1年で、少なくとも私が見た論文だけでも「えっ、こんなところも制御してるの?」という衝撃の論文がたくさん出てきています。
今回は、概日リズムが生体内のあらゆる状況を制御していることを見せつけている、衝撃の論文を4報紹介します。
※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
概日リズムが腸内細菌、乳児、ガンも制御する?という衝撃論文
腸内細菌に概日リズムがあり、アミノ酸代謝が変動している Cell Reports
腸内細菌叢のトリプトファン代謝が概日リズムを刻んでいることを示した動物試験の論文。
タイトルは、
The microbiota drives diurnal rhythms in tryptophan metabolism in the stressed gut
https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(24)00407-8
トリプトファン代謝酵素を持つ細菌の多くが概日リズムを刻んでおり、トリプトファン代謝物のインドール類やキヌレニンなどの盲腸内濃度も時間によって異なるそうです。
また、動物に急性ストレスを与えると腸内細菌の代謝リズムが乱れるだけでなく、なんと宿主側のトリプトファン代謝にも影響するそうです。
腸内細菌が宿主の概日リズムに影響しているとは、恐ろしい。
乳児の腸内細菌叢にも概日リズムがある Cell Host & Microbe
乳児の腸内細菌叢と糞便代謝物に概日リズムがあり、リズムで変動すると細菌がいることを明らかにした研究。
タイトルは
Diurnal rhythmicity of infant fecal microbiota and metabolites: A randomized controlled interventional trial with infant formula
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1931312824000581
乳児の腸内細菌叢は1年の間に劇的に変化しますが、その時期ごとに概日リズムの刻み方が異なるとのこと。
今回の研究では、乳児で特に多いビフィズス菌種に特徴的なリズムがあり、プレバイオテクスとしてガラクトオリゴ糖を乳児が摂取した際にリズムに影響が出たと報告しています。
妊娠期の概日リズムの乱れが、新生児の疾患リスクと関連? Nature Metabolism
妊娠期の概日リズムの乱れが、仔の新生児疾患(壊死性腸炎や敗血症)の重症化リスクを高めてしまうことを、動物試験で示した論文。
タイトルは
Maternal circadian rhythm disruption affects neonatal inflammation via metabolic reprograming of myeloid cells
https://www.nature.com/articles/s42255-024-01021-y
メカニズムとして、概日リズムの乱れにより新生児骨髄由来抑制性細胞(MDSCs)が機能障害を起こし、胎児の炎症惹起に繋がってしまうことを示しています。
動物試験の結果ではありますが、妊娠期の概日リズムの世代を超えた関連については、とても衝撃的でした。
ガン免疫の有効性を、概日リズムが制御する? Cell
腫瘍に浸潤するT細胞の量や機能には概日リズムがあり、免疫療法の有効性にも時間依存性があることを明らかにした論文。
タイトルは
Circadian tumor infiltration and function of CD8+ T cells dictate immunotherapy efficacy
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00410-0
腫瘍に存在するT細胞や白血球の量が見事に概日リズムを刻んでいること、この傾向は時計遺伝子Bmal1のノックアウトでキャンセルされること、PD-1療法やCAR-T両方の有効性に時間依存性があること、など、すべてが衝撃的です。
これが本当なのであれば、ガン免疫に限らずあらゆる免疫療法において「時間」という判断軸が必須になってくる可能性があります。
終わりに
今回紹介した4報を読むと、概日リズムが本当にあらゆる体内の状況を制御していることがうかがい知れます。
いかに私たちが時間にとらわれているかを、別の角度から見せつけられている気がします。
何か健康に対してアプローチする際に、今後は「時間」という評価軸が必須となる時代が来るかもしれません。
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