この記事では2024年5月中旬~6月上旬に出版された最新論文を4報紹介します。
「革命的な抗生物質が開発された」という今後の医学に大きく影響しかねない論文や、サルモネラ菌の増殖メカニズム、さらには「地中海食+個別化指導の有効性を調べた研究」について紹介します。
※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年6月7日:最新論文4報
病原菌に特異的に作用する抗生物質を開発! Nature誌
常在腸内細菌叢に悪影響を与えることなく、病原性グラム陰性菌に選択的に作用する抗生物質「Lolamicin」を開発したという論文。
タイトルは、
A Gram-negative-selective antibiotic that spares the gut microbiome
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07502-0
通常抗生物質は、特定の病原細菌などにターゲットを絞ることは難しく、ある程度広範なスペクトルの細菌に作用してしまい、腸内細菌叢などを大きく乱してしまうことが課題でした。
しかしこの論文では、その弱点を克服した抗生物質「Lolamicin」を開発したとのこと。
具体的には、他の常在微生物と配列相動性が低い病原性グラム陰性細菌のリポタンパク輸送系をターゲットとすることで、この特異性を確立したようです。
実験では、多数の多剤耐性菌、急性肺炎や敗血症のマウスモデル、Clostridium difficile感染に対しても有効性を示したと書かれています。
腸内でサルモネラ菌が増殖するメカニズムの一部を解明 Cell Host & Microbe誌
サルモネラ(Salmonella Typhimurium)が腸炎が起きた腸内で増殖する機構を明らかにした論文。
タイトルは
Salmonella Typhimurium expansion in the inflamed murine gut is dependent on aspartate derived from ROS-mediated microbiota lysis
https://www.cell.com/cell-host-microbe/fulltext/S1931-3128(24)00142-2
一般的に、腸炎を発症すると様々な病原微生物が増殖しやすい環境が腸管内でできあがるそうですが、そのメカニズムはよく分かっていなかったそうです。
この論文ではサルモネラ菌(Salmonella Typhimurium)に注目し、上記のメカニズムに迫っています。
まず、腸炎を発症すると腸内で活性酸素種(ROS)が増加し、ROSが腸内細菌を破壊すると大量のアスパラギン酸が腸内に放出されるそうです。
そしてサルモネラは、このアスパラギン酸を基質として取り込み、独自の代謝経路「硝酸塩依存性嫌気代謝経路」の基質として利用することで自身の増殖に使っているそうです。
安定同位体を使い、感染症罹患時の免疫細胞の代謝フローを捉える Science Advances誌
感染症罹患時に免疫細胞ではどのような代謝が亢進しているかを調べた論文
タイトルは
13C metabolite tracing reveals glutamine and acetate as critical in vivo fuels for CD8 T cells
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adj1431
この論文ではまず、マウスをリステリアに感染させ、その後安定同位体13Cを含むグルコースorグルタミンor酢酸を投与し、発症部位に集結するCD8 effector T細胞の代謝動態を調べています。
その結果、感染時にCD8 effector T細胞はTCA回路を活発にしますが、感染初期はグルタミンを、感染後期は酢酸を主な基質に切り替えていることが明らかになったそうです。
ちなみに、肺腫瘍にいるCD8Tはグルタミンをあまり使わないらしく、同じ細胞でも疾患ごとに代謝の流れが違うようです。
食事介入に個別指導プログラムを追加すると、有効性は高まるか? AJCN誌
地中海食の介入に個別化栄養を取り入れたら有効性が変わるかを調べたユニークなヒト試験。
タイトルは
A single-blinded, randomized, parallel intervention to evaluate genetics and omics-based personalized nutrition in general population via an e-commerce tool: The PREVENTOMICS e-commerce study
https://ajcn.nutrition.org/article/S0002-9165(24)00515-X/abstract
地中海食はその有効性がかなり明らかになってきており、実際に地中海食を推奨・介入したヒト試験では健康指標が改善したという報告もよく目にします。
そしてこの介入試験がユニークなのは、通常の地中海食介入に個別指導プログラムを導入し、その有効性が高まるかを調べている点です。
具体的には、被験者に事前にマルチオミクスを行い、結果をもとに個別に食品リスト(ECサイトで購入できる)や行動プログラムを提案しているようです。
試験結果としては、通常食(コントロール食)と比べて地中海食での健康指標の改善は見られたものの、個別指導による相乗効果は見られなかったようです。
とはいえ、個別化指導・個別化栄養の有効性を調べたりその実装方法を考えるうえで、この論文は参考になるなと思いました。
終わりに
今回は、病原細菌に特異的に作用する抗生物質、サルモネラの腸内での増殖メカニズム、感染症罹患時の免疫細胞の代謝を追跡した研究、個別化栄養により地中海食の有効性向上を目指した研究、を紹介しました。
特に、病原細菌特異的に作用する抗生物質は、今後の様々な治療に応用されていくことを期待したいです!
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