経口摂取する成分の機能性を議論する際、「どの成分をどのくらい摂取したか」はとても重要な情報です。
一方で、「どのような形態、形状、方法で摂取したか」も実は非常に重要で、その内容次第で摂取物の有用性も大きく変化します。
そして最近では、特定の経口摂取成分の有効性を高めることを目的に、生物学的視点とはまた別の技術を活用し、人工的に特定の機能を付与したり増強したりした経口製剤がたくさん開発されています。
今回は、最先端技術を活用した経口摂取用素材を開発し、その有用性を報告している論文を3報紹介します。
※本ブログは、直近1年程度に出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
最新ナノテクノロジーを活用した健康機能性経口摂取素材の論文3報
体内での活性酸素発生を制御できるナノ粒子 Nature Communications
二酸化チタンなどの無機金属を含むナノ粒子経口摂取製剤を開発し、これを経口摂取することで体内で容量依存的に活性酸素を発生させ、肝臓での脂質代謝を活性化できることを明らかにした論文。
タイトルは、
Antioxidant hepatic lipid metabolism can be promoted by orally administered inorganic nanoparticles
https://www.nature.com/articles/s41467-023-39423-3
高脂肪食を摂取しているマウスにこの製剤を投与することで肝臓への脂肪蓄積と脂肪肝を予防できること、副作用は発生しなかったことを報告しています。体内での活性酸素の発生量を、この製剤の摂取量である程度コントロールできることが強みのようです。
活性酸素除去能力を人工的に付与したビフィズス菌 Nature Nanotechnology
活性酸素除去能を持つ酵素を人工的にくっつけたビフィズス菌(Bifidobacterium longum)をつくり、プロバイオテクスとして利用したところ、体内の活性酸素除去能が高まり、元のB.longumより強い抗炎症効果を発揮したという論文です
タイトルは
Artificial-enzymes-armed Bifidobacterium longum probiotics for alleviating intestinal inflammation and microbiota dysbiosis
https://www.nature.com/articles/s41565-023-01346-x
このビフィズス菌が一定期間腸内に滞在することで継続して活性酸素除去作用を発揮することで、炎症性腸疾患の症状の緩和や破壊されてしまった腸バリアの修復などに有効であることを動物試験で確認しています。
アルコールを解毒して体内濃度を下げる経口製剤 Nature Nanotechnology
体内のアルコールを解毒してアセトアルデヒドの発生を抑え、血中アルコール濃度の低下やアセトアルデヒドに起因する体調不良を防ぐことができる経口摂取素材を開発したという論文。
タイトルは
Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification
https://www.nature.com/articles/s41565-024-01657-7
素材は西洋わさび由来のペルオキシダーゼを内包したアミロイドヒドロゲルが、この中で牛乳に含まれるβ-ラクトグロブリンというタンパクを使用して鉄を安定して配位させているのがポイントとのこと。
この素材は経口摂取後に腸管で長時間滞留し、アルコールから酢酸への分解を触媒してアルコールとアセトアルデヒドの濃度を低下させることができ、血中アルコール濃度の低下に有効であることを確認しています。
アセトアルデヒドではなく酢酸まで一気に反応を進めて無毒化してしまう発想と、それを実現する技術には驚きました。お酒に弱い人や二日酔いを防ぐ製剤としてポテンシャルが高いかもしれません。
終わりに
今回は、最新技術を使用した健康機能性経口摂取素材に関する論文を紹介しました。
普段私は食品会社で勤務していることもあり、既存食品やその抽出物での議論が中心になりがちです。
しかし今後は、今回紹介した論文のように、「既存素材の人工的な改変や最新技術の導入により、有用性の高い経口摂取素材を開発できるかもしれない」という視点を持つことは非常に大切なのかもしれません。
有用な経口摂取素材は今後もたくさん出てくるでしょう。
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