2024年7月8日:地球にやさしい食生活は健康にもいい?など最新論文4報

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この記事では2024年6月下旬~7月上旬に出版された最新論文を4報紹介します。

2019年にEAT-Lancet委員会が、Planetary Health Diet(PHD)というものを提唱しました。

これ自体は「地球環境に配慮した食事」という意味で、中身としては植物性食品を中心にして肉・魚・乳製品を減らすという食事・食生活を指しており、環境負荷が小さい食生活を通して地球・人類の持続性につなげようという文脈で書かれています。

一方で、植物性食品を中心に据えるというその特徴から、PHDがヒトの健康維持増進にも貢献するというコホート研究が出てきており、直近1週間でも数報見つけることができました。

この記事では、PHDとヒト健康に関する論文3報と、腸内細菌と食物依存症の関連を調べた論文1報を紹介します。

 

※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。

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目次

2024年7月8日:最新論文4報

PHDの遵守率が心血管疾患の発症リスク低下と関連する The American Journal of Clinical Nutrition誌

まず1つ目のPHDの論文は、心血管疾患発症リスクとの関連を評価した研究。

タイトルは

Adherence to a planetary health diet, genetic susceptibility, and incident cardiovascular disease: a prospective cohort study from the UK Biobank

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0002916524005860

 

こちらは英国のUKバイオバンクの研究で、PHDの遵守率が心血管疾患(CVD)、虚血性心疾患 (IHD)、心房細動 (AF)、心不全 (HF)、および脳卒中の発症と関連するかを調べています。

そしてこの研究はさらに一つ評価軸を加えており、遺伝的素因により上記の疾患リスクがもともと高い人においてもPHDの遵守が発症リスク低下につながるかも調べています。

被験者約11000人、追跡期間中央値9.9年のコホート研究データから上記の解析を行い、PHD遵守率が低い群と高い群に分けて比較することで解析を行っています。

結果として、PHD遵守率が高い方が上記いずれの疾患についても発症リスク低下と関連していること、この結果は遺伝的素因スコアと交互作用を示していなかったことを確認しており、遺伝的リスクに関係なくPHD遵守の高さと心血管疾患リスクの低下が関連していることを報告しています。

PHDの遵守率が死亡率低下と関連する The American Journal of Clinical Nutrition誌

PHDについての2つ目の論文は、PHDの遵守率と各種疾患による死亡リスクの関連を調べたコホート研究。

タイトルは

Planetary Health Diet Index and risk of total and cause-specific mortality in three prospective cohorts

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0002916524003897

 

こちらは、米国の有名な3つのコホート(the Nurses’ Health Study (1986–2019), the Nurses’ Health Study II (1989–2019), the Health Professionals Follow-up Study (1986–2018) )から合計20万人近くの追跡データを取得し、PHDの遵守率と全死亡率、あるいは心血管疾患、ガン、呼吸器疾患、神経変性疾患などによる死亡率との関連を評価しています。

結果として、全死亡率、および上記で示した疾患においては、PHD遵守が高いほどそのリスクが低くなることを明らかにしています。

またこの研究が面白いのは、PHDそのものの趣旨である「環境影響への関連」についてもサブ解析を行っており、PHDの遵守が温室効果ガス排出量などと逆の関連を示すことも確認しています。

PHDの遵守率が中高齢者の記憶力維持につながる? Nature Aging誌

PHDの論文3報目は、PHD遵守率と高齢者記憶力の関連を調べたコホート研究。

タイトルは、

Adherence to the planetary health diet and cognitive decline: findings from the ELSA-Brasil study

https://www.nature.com/articles/s43587-024-00666-4

 

こちらはブラジルのコホート研究で、50歳前後の被験者1万人を追跡し、PHDの遵守と認知関連機能の維持や低下と関連するかを評価しています。

結果として、PHDの遵守がその後の認知機能維持(=低下しない)ことと関連していることを見出しています。

一方で、この関連において被験者の所得が強く交絡している可能性があることも指摘しており、高所得者においては記憶力や認知能力の低下が遅れることを確認しています。

PHDはその性質上実施に費用が掛かることから、PHDを遵守できる人は一定の経済力があるという側面も考察される結果になっています。

 

食物依存症を予防している腸内細菌 Gut誌

食物を猛烈に欲してしまう食物依存症の人の腸内細菌叢を調べ、その予防に関わっている腸内細菌を発見した論文。

タイトルは

Gut microbiota signatures of vulnerability to food addiction in mice and humans

https://gut.bmj.com/content/early/2024/05/17/gutjnl-2023-331445.long

 

「食物依存症」というものに私自身あまりなじみがなかったですが、どうやらモノを食べることに対する制御機構が何らかの理由でうまく機能しなくなった人が発症するようで、過食につながるため肥満や生活習慣病の発症につながるといわれているようです。

行動制御に関することから脳における何らかの変化が関わっているといわれているようですが、一方で、腸内細菌が依存症発症やその制御に関わっている可能性も指摘されており、詳細は分かっていなかったようです。

この研究では、ヒトコホートで食物依存症のヒトで特徴的な腸内細菌をピックアップし、この菌が同部うつモデルなどで依存症上の予防や緩和につながるかを確認しています。

まず、ヒトデータの解析からBlautia wexlerae という菌が食物依存症者の腸内細菌叢で特に減少していることを見つけています。

そして、食物依存症マウスモデルにこの菌を経口投与することで、依存症状が緩和されることも確認しています。

また、このBlautia wexlerae が特に餌として利用するラクチュロースやラムノースなどのプレバイオテクスを依存症マウスに経口投与することによっても、症状が改善することも報告しています。

終わりに

今回は、「地球にやさしい食生活は、ヒトの健康維持にも良い」という観察研究結果を報告した論文3報などを紹介しました。

巷ではサステナビリティやSDGsという言葉が使い古されるくらい浸透していますが、食生活にもサステナビリティの概念を取り入れると、結果的に公衆衛生的な意味でもヒトの健康に貢献することができるかもしれません。

ただし、PHDの長期実施にはかなりのお金がかかるそうです…

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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