この記事では2024年7月上旬~中旬に出版された最新論文を4報紹介します。
※本ブログは、直近で出版された論文の中から、著者が独断と偏見で選択した論文を紹介しています。
2024年7月19日:最新論文4報
肥満を促進する腸内細菌が見つかった? Cell Host & Microbe誌
腸管での脂質の吸収を促進し、肥満を誘導する腸内細菌Megamonas rupellensisを発見したという論文。
タイトルは
Obesity-enriched gut microbe degrades myo-inositol and promotes lipid absorption
https://www.cell.com/cell-host-microbe/abstract/S1931-3128(24)00230-0
腸内細菌がヒトの健康に良くも悪くも様々な影響を与えることは広く知られてきていますが、現在でも菌ごとの機能や宿主への影響を丁寧に調べている研究が毎日のように出てきています。
この中国の研究では、肥満・インスリン抵抗性を持つ人とそうでない人の間に腸内細菌叢の違いがあることをショットガンメタゲノム解析で丁寧に調べ、その候補として挙がった菌種「Megamonas rupellensis」が肥満を促進する作用があることを明らかにしています。
Megamonas rupellensisの機能を調べていくと、高脂血症の治療などにも使われていたミオイノシトールという糖アルコール成分を腸管内で分解してしまう遺伝子があることが分かり、ミオイノシトール減少により腸管での脂肪吸収が亢進され、肥満につながっていくことを明らかにしています。
授乳中の母親の骨を守る新しいホルモン Nature誌
産後授乳中の母親は骨量が低下する傾向があるが、実は授乳期においてのみ、骨量低下を食い止める特殊なホルモンが脳から分泌されていることを明らかにした論文。
タイトルは
A maternal brain hormone that builds bone
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07634-3
授乳中の母親は、母乳にたくさんのカルシウムを供給するために骨の分解が進んでいるそうです。授乳期以外は骨破壊に対しては女性ホルモンのエストロゲンがその作用をブロックしているのですが、授乳期はエストロゲンレベルも急降下しており、エストロゲンによる骨分解阻止がうまく機能していないそうです。
このような背景が知られている中で、この研究グループは「エストロゲン以外にも骨破壊を食い止める生理活性物質などが存在するはずだ」という仮説を立て、研究をスタートしています。
まず、骨形成に関する何らかの因子が血中を巡回している可能性を先行研究から推察し、マウスを用いて骨同化にかかわるホルモンを探索し、cellular communication network factor 3 (CCN3)がその候補であることを発見します。
その後、このCCN3が骨格幹細胞を活性化させることや、マウスの骨折からの回復を早める作用があることを明らかにしています。
このホルモンは脳の弓状核から分泌されているそうです。
このホルモン、骨形成過程が大切な疾患などに対する治療に使える可能性など、さまざまなポテンシャルを秘めているかもしれません。
地中海食によるガン発症リスク低下を媒介する血中代謝物 Nature Communications誌
地中海食の遵守がガン発症リスクを低下と関連することを示し、リスク低下に関連する血液代謝物を探索してその影響の大きさを調べた論文。
タイトルは、
Effects of diets on risks of cancer and the mediating role of metabolites
https://www.nature.com/articles/s41467-024-50258-4
この論文のイントロによると、食生活とガン発症の関連を調べている研究は実はあまり多くなく、健康な食生活として知られている地中海食であってもエビデンスがほとんどなかったそうです。
またこの研究者たちは、健康への影響という点で食事は入り口であり、食べた後に体内の状態が何かしら変化することで健康に影響すること、すなわち体内代謝物の変動を捉えたうえで食事と健康アウトカムの関連を調べることがじゅうようである、と考えているようです。
この研究ではまず、UKバイオバンクのデータをもとに地中海食の遵守や質を反映するスコアがガン発症リスクが負の関連を示すことを確認し、その後被験者の血液代謝物データから上記の関連と結びつきが示唆される代謝物をピックアップしています。
さらにここで終わらず、抽出された代謝物を媒介因子とした媒介分析を行い、その代謝物が地中海食「スコア⇒ガンリスク低下」をどのくらい媒介しているかを評価しています。
解析の結果、コリン、オメガ3脂肪酸、グルコース、チロシン、クエン酸など約10種がピックアップされ、なかでもオメガ3脂肪酸がかなりの割合を媒介している可能性を明らかにしています。
ヒトにおいてもオメガ3脂肪酸がどのくらいガン発症低下に貢献しているのか、今後の研究が楽しみです。
非侵襲の光センサーで体内カロテノイド量を予想する International Journal of Obesity誌
皮膚に当てるだけで体内のカロテノイド濃度を予想できるデバイスを使い、カロテノイド量とメタボリックシンドロームの関連を評価した日本のコホート研究。
タイトルは
Skin carotenoid scores and metabolic syndrome in a general Japanese population: the Hisayama study
https://www.nature.com/articles/s41366-024-01575-7
この光センサー、カゴメさんが使用している「ベジチェック」というツールです。
このツールは皮膚に当てるだけで体内のカロテノイド(≒野菜の摂取量)を推定するというコンセプトで作られています。先行研究で実際に血中カロテノイド濃度とこのセンサーの値の一定の正相関が報告されており、現在このツールを使った研究をあちこちで行っているようです。
この研究は、日本でも有数のコホートの一つ、久山町コホートでの研究です。
40歳以上の男女約1600人を対象に調査を行い、ベジチェックでの測定スコア(≒体内カロテノイド濃度)とメタボリックシンドローム罹患歴の関連を調べている研究です。
結果として、カロテノイドスコアが最も高い四分位集団において、最も低い集団と比べてメタボリックシンドローム有無に対するオッズ比が低かったという報告をしています。
解釈としては、カロテノイドスコアというよりも野菜の摂取と捉えるのがいいのかなと思われます。
終わりに
今回はいかがだったでしょうか。
腸内細菌による肥満や代謝性疾患との関連は多数研究がある中で、肥満促進にここまで強く働く細菌はあまり見たことがなく、とても新鮮でした。
また、エストロゲンが下がってしまうという授乳期特有の減少に対してもちゃんとリカバリー策が用意されているヒトの体の仕組みにも、神秘的なものを感じてしまいました。
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