「研究職の業績と言えば?」
と聞かれたときに、皆様何を思いつきますか?
おそらく多くの人が、特許や論文を思い浮かべるのではないでしょうか?
著者もそれについては同意で、
特許・論文・そして学会発表などは、企業研究職にとって業績として認知されています。
これらの成果物が多い人の方が、結果を出してきた研究者と認識されやすいでしょう。
研究者の業績であり特許・論文・学会発表ですが、
実際現役の研究職の皆様はどのくらいの人が経験があるのでしょうか。
特に、会社の研究成果での経験についてはどうなのでしょうか?
実際何割程度の人が経験しているかについて、
これまで定量的なデータをあまり見かけたことがありませんでした。
そこで、本ブログの著者のツイッターアカウントを使用して
企業研究職の皆様にアンケートを取り、
「企業研究職は論文・学会発表・特許などの業績を積めるのか?」について調査しました。
以下のリンクから、私のアカウントを見ることができます。
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今回は、
「企業研究職の業績アンケート:論文は?学会発表は?特許は?」
という内容で、ツイッターアンケートの結果をまとめました。
そして、結果をもとに特許と論文・学会発表で傾向が異なる理由や、
逆境がある中でも論文などの対外発表を行った方が良いと著者が考える理由
についても述べました。
企業研究職の業績:論文・学会発表・特許はキャリア形成でめっちゃ大切!
今回のアンケートでは、
「会社の研究成果で積んだ業績」に絞って聞き取りました。
学生時代の成果などは対象としていませんので、
その点を踏まえて結果をご覧ください。
会社の成果で論文書いてる?
まずは、論文について聞いてみました。
「会社の研究成果で論文を書いたことはありますか?」
という質問を、企業研究職を対象にツイッターでアンケートを取りました。
結果はこちら↓
書いたことがある人は約30%、
共著なら経験がある人と合わせても50%を下回りました。
この結果を見る限り、
企業研究職の約半数は会社の研究成果で論文を書いたことがない
ということになりそうです。
学会発表の経験はある?
論文が約半数なら、もう少しハードルが低い学会発表ならどうでしょう?
先ほどと同じように、ツイッターアンケートで
「会社の研究内容での学会発表の経験はありますか?」
という質問を行いました。
結果はこちら↓
約半数が「0回」と回答しており、
企業研究職の約50%の人が、会社の成果での学会発表も経験がない
ということが分かってきました。
一方で、経験者の中には5回以上されている方もいるなど、
学会発表経験者と未経験者の間にかなりの差があることも見えてきました。
特許出願経験は?
論文、学会発表について聞き取ってきましたので、
最後に「特許」に関するアンケートを取りました。
企業での研究では、特許の優先順位が非常に高いです。
発明に基づく知的財産の確保を先に行った後に、
論文・学会などの対外発表を行っていきます。
そのため、何か成果が出た際にまず行う作業が特許に関するものであり、
論文・学会などと比べてかかわった経験がある研究職の人も多いのでは?と想像されます。
そこで、
「自身が発明した特許を出願したことがあるか?」
について、ツイッターアンケートを行いました。
結果はこちら↓
約30%の人が0件と回答し、
論文・学会と比べて未経験者が少ないことが分かりました。
とはいえ、30%近くの人が特許についても経験がないことから、
企業であっても研究職全員が特許出願できるわけではない、
という厳しい現実が垣間見えてきますね。
一方で、5件以上発明・出願した経験がある人も20%以上おり、
一定のキャリアを積むことで件数が増えていくことも想像されますね。
なぜ論文・学会発表が少ない?(考察)
ここは著者の考察ですが、
「論文・学会発表はお金にならない上に、リスクしかない」
と考える会社・部門・人が一定数いることは間違いなく、
この考え方のもとでは論文や対外発表は出しにくくなると思われます。
ここでいうリスクとは、
「特許に支障をきたし、権利化できないリスク」を指します。
先ほども述べた通り、企業の研究では論文や発表よりも特許の優先順位がかなり高いです。
また、優先順位がかなり高いだけでなく、
「特許の邪魔になることは極力させない」
という考え方を強く持っている会社も少なくありません。
ではなぜ論文や学会発表が特許の邪魔になるかというと、
情報公開に伴い、特許の新規性を自ら喪失させてしまうリスクが生じるからです。
特許はいわゆる「発明」であり、
発明者以前に誰もなしえなかった発明に対して権利を付与する制度です。
この時、「以前誰も発明していない」という部分については、
発明者本人が自身で公開している情報も対象となり、論文・学会発表も当然含まれます。
例えば、
「2023年8月1日に発明Aを特許出願した」とした場合、
8月1日以前にもし発明Aに関する論文が公開されていた場合、権利化は不可能となります。
このような形が想定されるため、
企業では特許を出す前に論文・学会発表は原則行わず、
発明に該当するものがないか厳しく確認を受けます。
「特許出願後は論文や学会発表は自由なのか?」
これについては、原則その通りなのですが、
その運用は企業ごとに考え方がだいぶ違うようです。
特許は出願直後1年半は内容が公開されるはありません。
また、出願直後1年であれば出願内容に修正を加えることができます。
そのため、
「出願後1年間は権利化できる内容を増やせるのだから、その間も不必要な情報公開はダメ!」
と考える会社も結構多くあり、
このような会社では出願後1年程度の対外発表は厳しいでしょう。
1年経ってしまうと発表内容の鮮度も落ちてしまいますし、
場合によってはよりレベルの高い論文・発表が外部から出てくる可能性も十分にあります。
このような状況になってくると、
企業から論文・学会発表などで情報公開するメリットが薄れ、
発表したくてもできないということになってきてしまいます。
実名で業績を残せるのが、研究職の特徴・長所
ここで、研究者個人としての業績という点で、
特許・論文・学会発表などを見つめてみます。
この3つにいずれも共通することとして
「実名付きかつ客観的に評価される業績である」
という点が挙げられます。
通常、会社員などをしていると、
「社内でのあなたの業績」を社外から客観的に評価してくれる人はほとんどいません、
というか不可能です。
例えば、
「前年比売り上げ50%アップを達成しました」という営業職の業績について、
その業績がどのようにすごいものなのか、
外部の人には実態が非常につかみにくくないですか?
どのくらいをその人一人で行ったのか、前任のおかげではないのか?
どの時期の業績なのか?開発品が珠玉だったのではないか?など
本人や関係者に聞いてみないとわからないことが結構たくさんあります。
一方で、特許・論文(学会発表は少し弱いですが)については、
上記の不透明さがありません。
出版日が明記されているし、実名が記載されているし、
何をしたかは本文を読めば理解できるし、その人の得意分野の背景も理解できます。
実際社会人になると、特許・論文ほど客観性が高く、かつ実名が入っている業績は
正直あまり多くありません。
そしてこれは裏を返すと、
「特許・論文などは、転職活動など外部へ自分をアピールする際に強い武器になる」
ということになります。
企業研究職で働いている限り、
特許出願に関する仕事は近いうちにやってくると思います。
その際、特許出願後に論文投稿や学会発表したいということを
関係者に事前に周知しておくとよいでしょう。
特許だけでなく論文や学会発表にもつなげることで、
会社の業績をうまく自分のキャリアづくりにも役立てていくとよいと思います。
まとめ
・企業研究職で、会社の研究内容で論文・学会発表を経験した人は約50%。
・特許出願経験がある企業研究職は約70%
・企業が特許を優先する意向が強いと、論文や学会発表はやりづらい。
・機会を見つけて論文や学会発表はしておいた方が良い、実名付きの個人の業績になる。
企業では特許の優先順位が高く、その優先順位に沿った仕事が企業研究職には求められます。
一方、個人としての業績に目を向けたとき、
特許ももちろん大きな業績ではありますが、
併せて論文を書くことも研究者個人としてとても大きな仕事となります。
知財部門などからは結構抵抗にあう可能性がありますが、
うまく落としどころを見つけながら、
論文・学会発表などのご自身の実名入りの業績をどんどん増やして、
研究者としてステップアップしていくことをお勧めします。
企業研究職は会社のために働いているものの、
同時に個人の業績に基づいた評価も下されやすい、個人事業主的な側面もあります。
企業でのご自身の研究成果をうまく自身のキャリアアップに役立てられるよう、
特許・論文・学会発表などの客観性の高い業績をどんどん積んでいきましょう!
研究職も転職できる
著者は昨年、研究職→研究職の転職を実現しました。
今回の記事を読んで、環境を変えることを検討してもよいなと感じた方は、
私の転職体験談と、以下の記事をぜひ読んでみてください。
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