研究職が企業で論文を書く:投稿までに乗り越えなくてはいけない壁とは?

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企業で論文を書くとき、アカデミアとは違った苦労があります。

 

企業においても、研究職が論文を書いて投稿することはたまにあります。

このブログの執筆者である私も、

昨年末より、業務の一環として学術論文を投稿する機会があり、先日無事に受理されました。

 

大学・アカデミアでは、学術論文を出すことそのものが一つの目的となっており、

学生や研究員が論文を書くことに対して、基本的に支障は少ないです。

一方で、企業で論文を出すときには、アカデミアとはまた違った部分で超えるべきハードルがあります。

企業と共同研究を経験された方は、論文投稿前にさまざまな調整業務が発生することを身をもって体感したかもしれませんね。

 

今回私が論文を出すと決めるときにも、

論文を書くことと並行して、いくつかのハードルを越えるための手続きを進めていました。

その中にはなかなか骨の折れるものもあり、企業で論文を出すことの難しさを感じました。

 

今回は、

研究職が企業で論文を書く:投稿までに乗り越えなくてはいけない壁とは?

という内容で書いていきます。

 

現在企業で研究をされている方は、私と同じような状況を経験する可能性もありますし、

将来企業で研究したい学生の方は、初めて聞く内容が多いかもしれません。

1人の研究職の経験ですが、ぜひ参考にしてみてください。

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目次

研究職が企業で論文を書く:投稿までに乗り越えなくてはいけない壁

論文を出すことで会社が得られるメリットは何か、説明できるようにしておく。

そもそも、会社の業務の一環として論文を出す場合は、労働時間の一部を論文投稿準備に充てるという扱いになります。

 

業務として行う以上、

その論文が会社にとってどういったメリットがあるのか、会社側に説明できなくてはいけません。

上司や会社が、この論文投稿が会社にとって良いものである・重要であると判断した場合に、

初めて論文の準備を進めることができます。

 

今回の私のケースをざっくりと説明すると、

ある食品を使った臨床試験の結果が良好で、この内容を論文するというものでした。

論文受理により、この食品に関する機能性表示食品届出資料に使うことができ、

届け出受理によりこの食品の付加価値化につながり、商品が売れるなど会社に貢献できる

ということを、会社にとってのメリットとして伝えました。

 

このように、論文を一つ書くだけでも、

会社へのメリットを説明できるようにしておく必要があります。

知的財産の出願は終えているか、これ以上出願できる内容は残っていないかを確認する。

企業では、研究成果の公開のまえに、

特許などの知的財産が優先されます。

そのため、一定の成果が出た段階でまずは特許の準備を最初に行い

論文などの外部公開はそのあとに取り組みます。

 

基本的に企業の研究者は、研究立案段階から取得できる知的財産を想定しており、

その知的財産が会社のどういった優位性につながるかも、事前に検討しています。

 

知的財産に関する取り組みが一通り決着した段階で、論文化などの外部公開を検討します。

 

ところが、研究結果が当初の想定と異なっていることも頻繁にあるため、

知財戦略もその都度見直しをしていきます。

十分検討したつもりでも、まだ知財化できる余地が残っていることもあるからです。

 

そのため、論文などで外部公開をする前に、出願余地がないか徹底的に調べ、

問題ないだろうと判断した後に初めて、外部公開に向けた準備に取り掛かかることができます。

論文に掲載されるデータは、外部に公開して問題ないか、関係各所に確認する。

基本的に、研究成果から得られた知見は、以下のような扱いをすることが多いです。

 

①自社が独占的に使えるように、知財等の権利化を進める。

②ライバル企業などに情報が漏れないよう、ビジネスが完成するまで外部には出さない。

③成果を外部へ発表することで、会社のPR・販促・ブランド力アップなどにつなげる。

④ビジネスをするうえで必要不可欠という理由で、外部へ公開する。

 

企業での研究成果は①や②の扱いをされることが多い一方で、かなりインパクトのある結果やビジネスに直結する内容の場合、③のようになることもあります。

また、トクホ・機能性表示食品など、査読付き論文が必須な場合は、④のような扱いをすることもあります。

 

上記の中で、論文を執筆できる可能性があるのは③と④の場合です。

ただしどちらも、最初に示した「会社にメリットがある」という前提が必要です。

 

やっと論文を準備できますが、

この時、論文に載せるデータは外部公開してよいか、関係各所へ確認しておく方が賢明です。

書いている本人にとってはとても重要なデータでも、

会社の他部署の人にとっては都合が悪い(公開されると困る)という状況が、生じうるからです。

社内の思わぬところからクレームをつけられると、とても大変です…

 

大変面倒くさいですが、関係者には論文投稿の旨と内容を事前に共有しておくほうが良いでしょう。

英文校正・投稿・出版にかかる費用を、予算として確保する。

ご存じの通り、論文の投稿から公開までには様々な費用が掛かります。

この費用がしっかり捻出できるよう、事前に予算を確保しておきます。

 

私もアカデミアにいた経験がありますので、

投稿先によって投稿料や規定が違い、どのくらいの費用が掛かるかは流動的であることは理解しています。

しかし、企業の中で(特に予算を管理しているような人たちに)このことを理解してもらうのはほぼ不可能です。

「論文投稿に必要になったからお金出して」というお願いは、聞いてもらえないこともあるようです。

(私の先輩が、投稿料が準備できないという理由で、アクセプトから公開まで半年かかったことがあります。)

 

論文を投稿する可能性が少しでもある状況であれば、

可能な範囲で事前に必要な予算を確保しておくほうがよいでしょう。

共著者を選定する。

正直、私の会社ではこの点はあまり問題はありませんでしたが、

twitterなどを見ていると、ここで揉めている話をよく目にします。

 

基本的に、研究への貢献についてはアカデミアと同じように考えればよいはずですが、

一方で社内政治を考慮しなくてはいけないこともあるようです。

この辺りは、うまくやるしかないですね…

上記を踏まえて、上長の承諾を得る。(どの役職まで承諾が必要かは、状況による)

これらの準備ができてきたら、必要に応じて上司や上長の承認をとっていきます。

別途文書や説明が求められることもありますが、ここは面倒くさがらずにがんばりましょう。

どの部分に対してどの役職まで承認が必要であるかは、会社によってルールは違うでしょう。

 

私の会社の場合、

投稿することそのものについては、共著者、私の直属の上司、研究所長までの承認が必要で、

それにかかわる予算の執行については、研究所長と常務クラスの承認が必要でした。

 

論文を出すための最後のプロセスですので、頑張ってやり切りましょう。

まとめ

・研究職が論文を書くとき、論文を出すことで会社が得られるメリットは何か、説明できるようにしておく。

・知財について十分検討してから、論文を投稿する。

・データを外部に公開してよいか、関係各所に確認する。

・予算を確保する。

・投稿に関して、必要な承諾を得る。

 

大学の研究室であれば、学生本人・指導教官・ラボのボスあたりの許可が取れれば、

あとは論文を書くことに集中できると思います。

 

一方企業では、論文を書くことと並行していろいろな準備をしていく必要があります。

会社によって違う点も多いと思いますが、ご参考になればと思います。

 

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この記事を書いた人

食品メーカー研究職。
修士卒→食品メーカー(この間、社会人博士取得)→2023年に研究職で転職。
専門は質量分析・オミクスを使った研究/発言は個人的見解です
Twitter:https://twitter.com/NzXyZQDOCMpLgz5

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