・企業の研究職は特許が大事というけど、みんな出願してるの?
・特許に関する仕事の仕方が、企業間で全然違うらしいけどホント?
今回の記事では、これらの疑問にお答えしていきます。
大学・アカデミアでの研究では、
「研究成果を論文としてを公開すること」にとても重点が置かれています。
大学・アカデミアの研究は「なぜ」に迫る研究も多く、
内容の斬新さや新発見に価値を見出すことが多いと思います。
一方で、企業では少しスタンスが異なり、
「特許などの知的財産」を優先・重要視することが多いです。
というのも、民間企業は営利団体であり、
利益を上げて会社を存続させ、事業を通して長期間社会へ貢献すること、
が存在意義となっています。
その際、特に「知的財産」というものがとても重要になります。
研究開発という業務の中には、
研究を通して新しく得られた発明(技術・モノ・作り方など)を
「特許」という知的財産として出願し「権利」を確保する
という大きな仕事があります。
研究開発を通して得られた発明は、
その権利を使用して事業展開をするうえで基盤となるものです。
「企業の研究では特許が大切」と言われる背景にはこのような事情があり、
特許の出願が優先度の高い仕事として認識されています。
では、実際どのくらいの研究員が「特許出願」の経験があるでしょうか。
私はこれまで5件以上の特許出願に関与してきましたが、
一方で、仕事の性質上あまり特許を出せない研究員もいました。
また、出願資料を研究員がすべて書く会社もある一方で、
資料はすべて社内の知的財産部門や特許事務所が作成する会社もあるようです。
このように、特許出願にかかる作業に研究員自身がどのくらい関与するのか、
そのスタンスが会社ごとだいぶ異なるようです。
各社のスタンスの違いや傾向も気になりませんか?
そこで今回、
本ブログの著者のツイッターアカウントを使用して
企業研究職の皆様にアンケートを取り、
「研究職の特許事情」について調査しました。
以下のリンクから、私のアカウントを見ることができます。
(ぜひフォローをお願いします!)
今回は、
「研究職はみんな特許を出願してる?明細書は自分で書く?」
というタイトルで、ツイッターアンケートの結果をまとめました。
【研究職はみんな特許を出願してる?明細書は自分で書く?
これまでに何件特許を出願したか(共同出願含む)
まずさっそく、企業の研究職の皆様を対象に
「これまでに特許を何件出願したか(共同出願含む)」
というアンケートを取りました。
結果はこちら↓
「えっ、0件や5件以下の人多くないか?」
回答を見たときの私の率直な感想でした。
また、共同出願含めてこの割合なので、
自身の発明で出願した経験がある人はほとんどいないんじゃないか?
と私は考えました。
そこで、次に「自身の発明」に関する出願について聞いてみました。
自身が主導した発明を何件出願した?
次に、
「自身が主導して発明した特許を何件出願したことがありますか?」
というアンケートを取りました。
先ほどの結果を考慮して選択肢の件数を変更し、
(0件、1-2件、3-5件、6件以上)
より狭い範囲で詳細に聞き取りました。
結果はこちら↓
先ほどの結果と比較すると、あまり分布に変更はありませんでした。
そのためこのアンケートの結果は
「自身の発明で出願した経験がある人」
について聞き取れていると考えてよさそうです。
イントロでも述べた通り、企業の研究では特許出願がかなり重要視されます。
研究を開始する前には、得られうる成果が特許となる可能性を検討しますし、
結果が出た後も、その結果から特許出願できる可能性がないか十分に吟味します。
このように、特許に関する相談は、企業の研究所では頻繁に行われています。
しかし結果を見ると、出願経験0件の人も3割以上いて、
5件未満も合わせると60%を超えてくることが分かりました。
あまり件数が多くない理由は、以下のように様々あると思います。
・出願させる基準が非常に厳しい会社が多く、件数が伸びない。
・この回答者に若手が多い。
・特許出願スタイルに業界間で差がある。
とはいえ、特許出願未経験の人がこれだけいるという現実には、
私自身少し驚きました。
特許出願経験やその出願内容については、転職活動の履歴書などにも書くことができます。
特許は未経験の人にはとっつきにくいと思いますが、
自身の市場価値を高めるという観点でも、
機会を見つけて出願を目指してみることをお勧めします。
明細書は自分で書くか?
次に、
「研究員は明細書をどこまで作るのか」
という質問を行いました。
特許をする際、その発明の背景から内容までをまとめた
「明細書」という書類を作成します。
この明細書、非常に独特な書き方をする書類で、
初心者には非常にとっつきにくいです。
そのため、明細書の作成を弁理士などの専門家へ委託している会社も多くあるようです。
一方で、発明したのは研究員自身であり、本人しか分からないこともたくさんあります。
そのため、発明の内容をまとめる作業には研究員の関与も不可欠です。
しかし、非常に複雑な明細書作成作業に対して、
専門外の研究員をどこまで関わらせるかは、企業によって大きく違うようです。
研究員が明細書作成までがっつり行う会社もあれば、
研究員は研究方法と結果を渡すだけで文章は書かない会社もあるなど、
かなりスタンスが異なるようです。
そこで、
「所属する会社では、明細書のどの範囲まで研究員が作成しますか?」
というアンケートを行い、その傾向を調べてみました。
結果はこちら↓
予想通り、大きく割れました。
しかしその中で、
・研究員は文章をほとんど書かない。
・明細書まで研究員が自分で書く
という両極端な選択肢が2トップとなりました。
予想していた通り、明細書に対する研究員の関わり度合いは、
企業ごとに大きく異なっていました。
私自身は明細書の一部まで自分で書いていたため、
「研究員が何も書かない会社がこんなに多いのか…」
と少しショックを受けました。
ただし、個人的な意見ですが、
複雑怪奇で独特な特許明細書、
研究員も自分の手で書くことでとても勉強になります。
会社のスタンスに逆らう必要がありませんが、
特許出願の際に一度は取り組んでみることをお勧めします。
特許に関する目標・ノルマはあるか?
企業では特許が非常に重要視されていると書きましたが、
この雰囲気が行き過ぎているる会社の中には、
「特許出願数の年度ノルマ」を設定しているところもあります。
なんか、聞くだけで嫌になりますね。
そこで、
「特許に関する目標・ノルマは設定されていますか?」
というアンケートを取りました。
結果はこちら↓
拒絶通知対応を行ったことはあるか
特許は出願して終わりではありません。
出願2年後以降に、特許として認めてもらうための審査請求を行い、
修正等を重ねて認められた内容が特許として登録され、権利が確定します。
この審査請求の際に特許庁から送られてくる審査書類を
「拒絶通知」といいます。
すなわち、特許を権利として確定させるためには、
多くの場合拒絶通知へのと対応を行うことになります。
特許庁の審査結果に対して、その結果を受けて特許の内容を修正することも多く、
とても大変な作業です。
では、拒絶通知対応を行ったことがある研究員は、
どのくらいいるのでしょうか。
結果はこちら↓
約半数の人が拒絶通知対応を行った経験があるとのことでした。
自身が出願した特許に関する拒絶通知には自分で対応することが多く、
先ほどの出願経験者の多くが拒絶通知対応も行っている可能性が高そうですね。
まとめ
・特許出願経験は、5件未満の人が多いが、たくさん出している人も。
・明細書は、研究員が書く会社もあれば、研究員は全く書かない会社もある。
・特許出願に関する目標やノルマを設定している会社も存在する。
特許は民間企業研究員の大きな仕事の一つです。
しかし特許関連の業務でアンケートを取ってみると、
出願経験が少ない人も多かったり、
明細書を全く書かない会社があったりと、
意外と知らないことが多かったのではないでしょうか。
著者の意見:自分で特許関連書類を作るのも、よい経験
皆様、特許の明細書、読みにくくないですか。
これ、独特な書き方をしているためであり、
読み慣れるのには訓練が必要です。
数多く読んで慣れることも大事ですが、
私個人としては、
特許に関する書類を一度はご自身の手で作成してみることをお勧めします。
もちろん、会社から任されないこともあると思いますが、
その場合も自分でできそうなところは自分でやってみてください。
特許は独特の書き方をしますが、
一番早くなれる方法は、自分で書く経験をしてみることです。
一度書くと構造が何となく理解できるようになるはずです。
皆様の研究が上手く進み、権利化できそうな内容が出てきた際には、
まずはご自身の手で特許に関する書類を作成してみましょう。
先輩や専門家のアドバイスを受けながら取り組めば、
すぐになれることができると思います!
特許を書き、自分の業績にしよう!
特許は、研究者としての自分の業績として堂々と履歴書などに書くことができます。
その領域の研究者として生きていくうえでも、
転職活動をする際にも役に立ちます。
詳しいことは、以下の記事に書いていますので、
ぜひ読んでみてください。
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